介護の声かけ、話し方、聴き方の基本とは

投稿日:2015-04-08
更新日:2022-07-06

介護の声かけ、話し方、聴き方の基本とは

高齢や障害等が原因で介護を必要とする人たち(以下、要介護者)に対して、どのような声かけ、話し方をしたら良いのでしょうか。
よりよい介護に結びつけるためには、介護を提供する人(以下、介護者)が、声かけ、話しかけを行って要介護者とコミュニケーションを十分に図り、深い信頼関係を築くことが重要です。
この記事では、要介護者の特性等に合わせたコミュニケーション(声かけ、話し方、聴き方)の方法を紹介します。

介護における声かけ

介護者による声かけの基本姿勢は、「要介護者の立場に立った声かけ」です。これを実行するためには、要介護者の抱える疾患や障害等を充分に理解するとともに、対象者に合った声かけの方法を知る必要があります。
一つずつ、その特徴・方法を見ていきましょう。

認知症高齢者の場合

認知症とは、主に脳の萎縮等が原因で発症する記憶障害です。次のような症状があります。

認知症の症状

  • 軽度:数分前のことが思い出せない、物の名前が出てこない等
  • 中等度:妄想やせん妄が出る、人を疑う等
  • 重度:介護を拒否する、意思疎通が困難、言葉を完全に話さなくなる等

認知症を抱える人のなかには、今自分がどこにいるのか、誰が話しかけているのか分からず、不安な気持ちになっている人がいると考えられます。
よって、少しでも彼らの不安を解消し、安心してもらえるような声かけが重要です。

声かけの例

次のような声かけが、認知症高齢者にとって適切だといえるでしょう。

  • ゆっくりとした口調、適度な声の大きさ、笑顔で声をかける。
  • ここはどこで、自分は誰なのか。何のために話しかけているのかを伝える。
  • 相手が何を不安に思っているのか聴き、不安な気持ちに寄り添う。
  • 安心感を与えるために、手を握る、さする等の適度なスキンシップを取り入れる。

高齢者は老化により高い音域の声が聞き取りにくくなる(加齢性難聴)ため、ゆっくりとしたテンポで、かつ、高すぎないトーンで声かけするとよいでしょう。

視覚障害の方への声かけ

視覚障がい者の場合、基本的な情報の受け取りは言葉を介して行われます。そのため、介護者の声かけの方法や、使用するキーワードに関して充分な配慮が必要です。

いきなり話しかけない

通常、私たちは目で相手の存在を確認し、その後に声を聞くことでスムーズに情報を受け取ることができます。しかし、視覚的な情報が得られにくい視覚障がい者に対して、突然声をかけることは、私たちが何の前触れ無く後ろから声をかけられることと同じです。とても驚かせてしまい、場合によっては混乱を招くでしょう。
よって、まずは正面を向いて気配を感じ取ってもらい、介護者の存在を認識させたうえで、ゆっくりと話しかけましょう。

あれ、これ、それ等の指示語はNG

介護者は、話す内容として「あれ」「これ」「それ」等の指示語、「これ」といった指差しの表現は使用しないようにしましょう。視覚に障害があると、このような言葉をいわれても、正確な情報が伝わりません。
説明するときには「あなたの左隣に〜」「机の上で、あなたから見て12時の場所に〜」「今の場所から1m離れた場所に〜」等、数字等を使って具体的な表現でわかりやすく伝えましょう。

一度の情報量を少なくする

一度に発する情報量が多すぎたり、回りくどかったりする表現は、対象者の理解が得られにくいと考えていいでしょう。情報を伝えるときには、できるだけ短文にして要点を伝えるのが効果的です。例えば、例えば次のような順序です。
(視覚障がい者Aさんがイスに座ろうとする場合)

  1. 「Aさん、イスに座りましょうね」
  2. 「私がAさんの右手を持ちますね」
  3. Aさんの右手に触れ、イスの背もたれを触らせる。
  4. 「Aさん、今右手で触っているのが背もたれです」
  5. 「今度は、Aさんの左手を触りますね」
  6. Aさんの左手に触れ、テーブルの表面を触らせる。
  7. 「Aさん、今左手が触れているのはテーブルです」
  8. Aさんがイスに座るのを介助する

参考になるのは、視覚障がい者向けのラジオ放送等です。放送では視覚障がい者に配慮した情報の発信を心がけているため、機会があれば聴いてみて下さい。どのような点に配慮をすべきか理解できるはずです。

介護における話し方の基本

介護の現場では、たまに次のようなことが起きます。

  • B職員が話すと要介護者は落ち着いてコミュニケーションを図る
  • C職員の場合は、必ずしもそうでなく要介護者が不穏(落ち着かない状態)になる

これは「人と人との相性」というキーワードだけで片付けられる問題ではありません。
もちろん、相性が全く関係していないとはいえませんが、大切なことは、話しやすい雰囲気、介護職員の話す音量やスピード等、様々な点に配慮があるかどうかです。

また、話す内容に合わせた表現、顔の表情や仕草等(非言語的コミュニケーション)にも工夫することが重要だといえるでしょう。以下、介護現場において話しかける際の工夫例を挙げます。

相手をよく知る

よいコミュニケーションを図るためには、まず相手をよく知ることから始まります。
どこで生まれ、どのような幼少期を経て、成人してどのような時代を生きてきたのか。そして、自身をどのような性格だと思っているのか、基本的事項を知り、コミュニケーションに活かしましょう。

フェイスシートを利用する

多くの介護現場で利用されているフェイスシート(利用者台帳やカルテ等)が利用者理解に役立ちます。フェイスシートに記録されている情報は次のようなものが一般的です。

  • 利用者氏名
  • 家族構成
  • 職歴
  • 家庭環境やご家庭の様子
  • 既往歴(過去にかかった病気)
  • 利用者、家族のニーズ

利用者をよく知るうえでとても便利な資料となりますので、閲覧の場合には介護支援専門員に相談のうえ、施設の定めるルールに基づいて閲覧しましょう。コミュニケーションのヒントにすることができるでしょう。

過去の経験を話題に

要介護者の過去の経験を話題にすると、充実したコミュニケーションができ利用者理解につながります。例を挙げてみましょう。
施設利用者のDさん(85歳、女性)は若い時に呉服屋に務めており、お着物の着付けが上手でとても評判だったそうです。
この情報を得た介護職員は、Dさんとの日頃のコミュニケーションのなかで「お着物」に関しての話題を振りました。すると、普段はおとなしいDさんが、嬉々としてお着物に関する話をたくさんしてくれました。それだけでなく、彼女の成育歴や、若い頃にどのように過ごしてきたか等の話にまで発展しました。

このように、要介護者が過去に積み重ねた経験は、かけがえのない大切なものです。このテクニックを効果的に利用して、利用者とのコミュニケーションが活性化するといいでしょう。

介護者も自分のことを話す

相手の話を充分に聴くと同時に、自分のことを少しだけ話してみましょう。できれば、要介護者の意見や感情に同調するような表現がいいです。必要に応じて情報発信し、相互理解を深めましょう。

抑揚を付ける

同じ言葉を用いても、トーンが変われば相手への伝わり方に変化が生まれます。例を挙げてみましょう。

施設利用者Eさん(男性、79歳)は自身の抱える大きな病気のことでストレスを感じています。Eさんは介護職員に対し「病気が治らずに辛い」と不安を漏らしました。
この記事を読んでいる皆さんが返答するとしたら、次のどちらを選択しますか?

  1. 低くゆっくりとしたトーンで「それはとてもお辛いですね」
  2. 言葉に抑揚がなくフラットな感じで「それはとてもお辛いですね」

間違いなく1の方が、共感的な姿勢だといえます。このように言葉やキーワードにふさわしい抑揚を付けることが重要です。

毎回、わざと抑揚を付ける必要はありません。時と場所、話題や状況に合わせて、適切な抑揚を付けると相手に与える印象が変わります。ぜひ実践してみて下さい。

表情を豊かに

介護者は「良かったですね」「大変でしたね」「それはお辛いですね」「とても嬉しいです」などの言葉を発するとともに、表情を豊かにしましょう。

人間には感情があります。その感情を豊かに表現することで、要介護者とのコミュニケーションがより深みを増します。これらを繰り返し行うことで、信頼関係を少しずつ築いていくことが重要です。

介護現場における聴き方

コミュニケーションにおいては、声かけや話し方よりも重要なのが「聴き方」です。
昔から「聞き上手は話し上手」というように、介護の現場においても、要介護者の話を聴いて差し上げるのがコミュニケーションの基本です。
要介護者の話を聴くうえで、重要なのは「傾聴」と「受容」です。

傾聴

傾聴とは、とにかく要介護者の話に耳を傾けることです。「聞く」ではなく「聴く」ことです。相手の話す内容だけではなく、その言葉の背景にある気持ちにまで目を向けることです。
要介護者の立場に立って、その気持ちに共感しながら理解しようと努力します。自分の価値観で、その話の良し悪しを評価せず、好き嫌いの判断をせずに、とにかく聴きます。
要介護者の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴くことが重要です。

受容

人は誰しも、自分を認めてほしいという「承認の欲求」があります。介護の場面においても、要介護者の言葉を聴き、その感情を受け入れていくことが受容です(注:ただし、自傷他害の恐れがない場合に限る)。要介護者は承認の欲求が満たされていくのを感じるでしょう。
もちろん、介護者も人間である以上、要介護者の話す内容をすべて受け入れることは困難でしょう。話の内容によっては、納得しがたいものがあるでしょう。
しかし、大切なことは「なぜそのような考えになるのだろう」「今、どんなことを考えているのだろう」等、利用者の思いや立場を考えてみることです。

まとめ

介護現場であろうとなかろうと、コミュニケーションの基本は同じです。大切なことは相手の立場に立って話を聴き、適度に相づち等を打って共感的に傾聴することです。

要介護者は、自分の抱えている疾患や障害が原因で不便な生活を強いられている人たちです。場合によっては、対人関係や、コミュニケーションにおいても不便さを抱え、ストレスを感じる人がいるでしょう。

介護とは単に、介護技術を用いてサービスを提供するだけではありません。介護者は、要介護者を充分に理解し、信頼を得て、彼らの抱える不安を少しでも解消する役割があります。
上記のコミュニケーション方法(話し方、聴き方)を介護現場で実践して、要介護者との良好な人間関係を築いて下さい。

参考文献

  • 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2016)『新・介護福祉士養成講座 コミュニケーション技術』第3版 中央法規
  • 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2015)『新・介護福祉士養成講座 障害の理解』第4版 中央法規
  • 渡部律子(2006)『高齢者援助における相談面接の理論と実践』 医歯薬出版株式会社
  • 諏訪茂樹(2010)『対人関係とコミュニケーション』第2版 中央法規