介護職員にありがちな悩みとその解決策について

介護職員にありがちな悩みとその解決策について

介護施設等に勤める職員が抱えがちな悩みには、どのようなものがあるでしょうか。
仕事内容、人間関係、待遇、身体面、将来性など、挙げればキリがありませんが、介護職はどのようなことで悩み、どのような方法で解消しているのでしょうか。

この記事では介護職員にありがちな悩みのなかでも、人間関係と待遇面の悩みにスポットを当て、その実際を紹介するとともに、その解決策について解説します。

人間関係の悩み

人間関係の悩みは、どの業界でもあり得る問題であり、介護現場に限った話ではありません。
しかし、介護現場は多くの人と人が関わる職場であるため、人間関係の悩みに陥りやすく、結果としてそれが退職・転職理由の一つになることがあります。

職員間の人間関係

介護施設の規模や種類(入所 or 通所)によって若干の違いはありますが、現場では少ない職員の数で、チームワークを発揮しながら仕事をしています。
良い人間関係が構築され、チームワークが発揮されればいいのですが、必ずしも全てがうまくいくわけではありません。
ここでは、介護職員が職場の人間関係で抱えがちな悩みを紹介します。

同僚との連携場面

介護施設はたくさんの人と人が関わって仕事が成り立っているので、そこには様々な感情が交差します。
どうしても、ボタンの掛け違いが原因で対立したり、思い違い・すれ違いが起きてしまいます。実際にあったケースを紹介します。

A職員とB職員の対立

A職員は早番勤務で、利用者の離床促し(起床の支援)を行っていました。A職員は丁寧、かつ穏やかに介護を提供するのが理想だと考えており、日頃からそのような実践を心がけていました。
しかし、同じ早番で勤務のB職員は、A職員のことを良く思っていません。なぜなら「Aさんは仕事が遅い。限られた時間内で仕事を済ませるのも、介護職の仕事だ」と思っているからです。

B職員は「そんなに時間をかけていたら、早番の仕事が終わらない。日勤帯の人たちに迷惑がかかってしまう」と、決して口にはしないものの、態度で表しています。
本来ならお互いに声をかけ合って仕事をするはずが、全くコミュニケーションのないままに離床促しが行われました。

このように、介護職員の持つ「介護観」が異なり、時間的な制約と与えられた役割との狭間で、人間関係の不和が生じてしまうことがあります。

様々な専門職との連携場面

現場には介護職員だけではなく、看護師、理学療法士、管理栄養士等の様々な専門職がいて、それぞれが連携し合って仕事をしています。
しかし、お互いが自身の専門性に固執するあまり、他の専門職との連携がうまくいかない場合があります。
ここでは、介護職員と看護師の意見が異なり、対立してしまったケースを紹介します。

C介護職員とD看護師の対立

C介護職員は「施設は利用者にとって終の棲家。その人らしい生活を尊重したい」と考え、日頃からそのような介護実践を心がけています。どの利用者に対しても同じように接して、その人の想いを重要視するようにしています。

しかし、D看護師はこれを良く思っていません。なぜなら、看護師は「治療等を優先するためには、利用者の気持ちを尊重できない場合がある」という考えだからです。
利用者のなかには病状が悪い人がいて、本人の想いよりも、治療・回復を優先しなければならない。看護師としての役割を全うしたいと思っているようです。

本来なら、C介護職員とD看護師はお互いの専門性を認め合い、あらかじめ定めた支援・援助方針に基づいて仕事をすることが求められます。
しかし、上記のように仕事に対するポリシーが影響してしまい、結果として、やっていることがバラバラ、目指しているゴールも異なるというケースです。

各専門職が専門的見地から、利用者の支援方法を考え、実践することは大切なことです。
しかし、それをお互いが理解していない、共有していないと、より良いケアには結びつきません。

具体的解決策

特効薬のような解決策はありませんが、以下の方法を実践してみて下さい。

日頃のコミュニケーションを心がける

複数の介護職員、様々な専門職が登場する現場では、日頃からのコミュニケーションを活性化することが重要です。
これには、関わる人物がコミュニケーションの必要性に関して、同じ認識を持つことが大前提です。

他愛もないコミュニケーションから始め、介護職員間だけでなく、他の専門職とも積極的に情報を交換しましょう。
各専門職がどのような考えで、どのような支援を行っているのか共通理解を得ることになり、ひいては利用者のウェルビーイング(幸福、福祉)の向上につながるからです。

ケアの方針を定める

当然のことですが、利用者一人ひとりに対してケアの方針を定めることが重要です。
方針が定まっていない、または、ゴールがぼんやりしていると、介護職員も他の専門職も、どの方向を目指して仕事したら良いか分からなくなってしまいます。
支援方針の決定プロセスでは、様々な専門職の役職者が集まり、話し合い・情報交換に時間をかけて決定することが重要です。

部署移動を希望する

解決しがたい人間関係の不和に悩んでいるのであれば、上司や人事に相談して部署異動や配置転換を申し出てみて下さい。
緊急かつ重要ではない限り、すぐにこれが実現することはありませんが、時間的な区切りができる(○月までこの部署で働けばいい、と思える)だけでも、少しは気が楽になります。

待遇に関する悩み

どの業界にいたとしても「もう少し給料を上げてほしい」という希望は尽きることはありません。介護現場でも同様です。

ましてや、介護業界の場合、全産業の平均と比べると賃金が低いという傾向にあるため(引用1)、このような希望がたくさんあって当然かもしれません。

給料が安い

公益財団法人 介護労働安定センター が行った「令和2年度 介護労働実態調査」によると(引用2)、一般労働者の所定内賃金(無期雇用職員、月給の者)は、平均で243,135円でした。
この調査の対象には、有期雇用職員やパートタイム労働者は含まれていません。このような人たちは、上記金額よりももっと低い傾向にあります。

国は、介護職員の賃上げを実現するため、介護職員処遇改善支援補助金等を支給し問題の解決を図ろうとしています。しかし、依然として課題の解決には至っていないのが現状(引用3)です。

解決策

簡単に問題の解決には至りませんが、次の方法を実践してみて下さい。

資格を取得する

厚生労働省の行った「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護系の有資格者は無資格者と比べて給与が高いという結果が出ました。


介護職員の平均給与額等(月給・常勤の者)

資格の有無 平均給与額
介護福祉士 329,250円
実務者研修 303,230円
介護職員初任者研修 301,210円
保有資格なし 275,920円

出典:令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果 厚生労働省(引用4)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/20/dl/r02kekka.pdf


表内にあるとおり、介護福祉士が最も給与が高く、無資格者は最も低い結果です。両者の間には、5万円もの開きがあります。
この調査結果から、介護系の資格を持つということは、施設から待遇面での評価を得られやすいと読み取ることができます。

また、資格取得には次のようなメリットがあります。

  • より専門的な知識や技術を身に付けられる
  • 介護現場で長く働くことができる
  • 給料UPにつながる
  • 転職時に有利

実務者研修は社会人でも通信教育で取得が目指せます。自分の希望する将来イメージを思い描き、必要な資格取得にチャレンジして給料UPを図って下さい。

転職する

より給与の高い施設へ転職することです。介護現場は慢性的な人手不足だと言われているため、転職がしやすい業界だといえます。
勤務する施設が変わったとしても、人を相手にし、介護を提供する仕事であることには変わりありません。きっと、これまで積み上げてきたキャリア・経験を、転職先の施設でも充分に活かせるはずです。

なお、転職を有利に進めるためには、次のポイントを整理しておくことが重要です。

常にアンテナを張っておく

転職を急いでいようと、そうでなくても、求人情報をチェックする癖を付けましょう。
いつ何時、どのような求人に出会ってもいいように、常にアンテナを張っておきます。
また、記入済みの履歴書を複数枚ストックしておくといいでしょう。志望動機の欄は空けておき、受験したい施設が見つかってから、あとで追記するようにすると便利です。

自分の理想とする働き方を探る

勤務したい地域、施設の規模、給与、勤務時間、雇用形態などの項目を挙げておき、優先度の高い順に並べておきましょう。そのうえで、どこまで妥協できるのかという許容範囲を定めておきましょう。
目ぼしい求人が出たら、この基準と照らし合わせて妥協点を見出し、入社試験を受けるかどうかを決めます。

自分の強みを明確化する

これまでのキャリアを振り返り、自分のストロングポイントを整理し、明確にしましょう。

  • 資格を取得して○年の経験がある
  • 不穏の利用者を穏やかにさせるのが得意
  • とにかく利用者の話に耳を傾ける、聞き上手
  • 他者と協働することが得意 等

新しい勤務先で実践できることを、具体的なエピソードとともに準備しておきましょう。
転職活動で入社試験を受ける際、面接官に自分の強みを充分に伝え、PRできるといいですね。

まとめ

この記事では、介護現場で働く職員が抱えがちな悩みを紹介するとともに、その解決法について解説してきました。

どの業界、事業所で働いたとしても、仕事上の悩み・ストレスから逃れることはできません。むしろ大切なことは、うまくストレスと付き合いながら過ごすことです。
とはいえ、大きな心理的負荷のかかった状態で仕事を続けることは、精神衛生上よくありません。退職や転職を考えるのは当然のことです。

また、転職を前提として仕事をすることは、不誠実なことではありません。むしろ、不満やストレスを抱えたままで、嫌々仕事をする方が不誠実だといえます。

転職・退職が目の前にある時でも、そうでない時でも、求人情報を眺めてみて下さい。今よりも良い給料で、自分の力を活かすことのできる施設が見つかるかもしれません。

参考文献

  1. 諏訪茂樹(2010)『対人関係とコミュニケーション』第2版 中央法規
  2. 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2016)『新・介護福祉士養成講座 コミュニケーション技術』第3版 中央法規
  3. 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2017)『新・介護福祉士養成講座 介護の基本Ⅱ』第4版 中央法規

引用文献

  1. 介護職員の平均給与、月32万3千円 増額するも全産業とは差 2022年3月24日 朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASQ3R7DHBQ3RUTFL00M.html
  2. 令和2年度 介護労働実態調査結果について 公益財団法人 介護労働安定センター http://www.kaigo-center.or.jp/report/2021r01_chousa_01.html
  3. 介護・看護職の賃上げに不満続出 政府の制度欠陥が生んだ格差 2022年7月6日 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20220706/k00/00m/040/112000c
  4. 令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果 厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/20/dl/r02kekka.pdf