介護事務の仕事 ~一般的な事務職との違い~

投稿日:2015-04-08
更新日:2022-08-03

介護事務の仕事 ~一般的な事務職との違い~

介護業界でも特に人気のある介護事務ですが、一体どのような仕事をするのでしょうか。

年齢的にも長く働ける介護事務は、出産や育児でブランクがあったり、家庭と仕事を両立したい女性から人気のある職種です。
これを読んでいる人のなかには、「介護事務の仕事とは?」「どんな資格があるのか?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、介護事務の仕事内容や求められる知識・資格を解説します。介護事務への転職や、関連資格の取得を目指す人は、ぜひ参考にしてください。

介護事務とは

介護事務とは、介護を提供する施設・事業所等(以下、施設)において、事務業務に携わる人たちを指します。主に介護報酬請求や受付業務を担います。
このような事務スタッフは「女性の仕事」というイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、近年では男性にも人気の職種です。

介護保険の利用者が増えていくなかで、求人は増加傾向にあり、介護事務の必要性は高まるものと見込まれています(参考1)。

介護事務の仕事内容

介護事務が従事する具体的な仕事内容は、大きく以下の3つに分けられます。


  1. 介護報酬請求
  2. 受付業務、問い合わせ対応
  3. 会計業務

それでは、各仕事内容について詳しく見ていきましょう。

介護報酬請求

介護報酬請求は、介護事務が担う業務の中心となります。
介護報酬とは、施設が利用者に介護サービスを提供した場合に、その対価が利用者の自己負担分を除き、保険者(市町村)から給付されます。


介護報酬の支払いの流れ(引用1)

介護報酬の支払いの流れ

出典:厚生労働省「介護報酬について」より一部を抜粋(閲覧日:2022年7月29日)


自身が勤務する施設が介護報酬を受給する為には、利用者に対してどのようなサービスを提供したのか各月ごとに計算し、翌月の10日までに国民健康保険団体連合会(後述)に請求する必要があります。

介護報酬は、施設が提供する介護保険サービスによって異なる単位(後述)が設定されているうえ、サービスを提供した利用者の要介護・要支援区分、施設の所在地等に応じて加算・減算される仕組みとなっています(参考2)。


介護報酬の基本的な算定方法(引用2)

介護報酬の基本的な算定方法

出典:厚生労働省「地域区分について」」より一部を抜粋(閲覧日:2022年8月1日)

介護報酬における単位とは

介護報酬における単位とは、介護保険サービスを提供した際の対価のことを指します。
1単位10円が基本とされており、提供するサービスや施設の所在地等によって異なる場合もありますが、今回は皆さんに説明するために、具体的な事例を元に解説しますね。


事例:Aさんの場合

利用者の基本情報Aさん、79歳、男性。自宅で一人暮らし。要介護4で自己負担割合は1割
項目 内容
サービスを提供した施設等 B訪問介護事業所
サービスの内容 職員2名がAさん宅を訪問し、身体介護サービスを提供した。所要時間は1時間以上、1時間30分未満だった。
1回あたりの単位 1,390単位
単位数単価 1単位=10円
1回あたりの費用 1,390単位 × 10円 = 13,900円
利用者負担 13,900円 × 10% = 1,390円
保険請求額 13,900円 - 1,390円 = 12,510円
→B事業所は、この金額を国民健康保険団体連合会(後述)に請求する

介護報酬を審査する機関

施設(介護事務)が作成・提出した介護給付費請求書は、各都道府県ごとに設置された国民健康保険団体連合会(以下、国保連)に送られ、審査が行われます(参考3)。

審査の結果、請求内容に問題がなければ、介護給付費として施設に介護報酬が支払われます。内容に不備があった場合は、国保連から介護給付費請求書が戻されます。これを返戻(へんれい)といいます。
もし返戻があった場合には、介護給付費明細書のミスを訂正し、翌月度に再度請求を行います。再請求しない限り支払いは発生しない(参考4)ため、注意が必要です。

介護事務は介護保険の仕組みを理解して、ミスがないように介護報酬を請求することが重要です(参考5)。

受付業務、問い合わせ対応

介護事務は、施設での受付業務に従事します。具体的には次のような場面です。

種類 対象 用件・対応方法
来訪 利用者の家族等 利用者との面会、利用者の生活に関する相談等
→用件を聞き取り生活相談員に繋ぐ。
入所希望者 入所・費用に関する相談
→用件を聞き取り、面談室へ案内。生活相談員に繋ぐ。
医療機関の関係者
他事業所の職員
介護支援専門員
関連業者
サービス担当者会議への参加、要介護区分更新のための調査、福祉用具のメンテナンス等
→用件・アポイントの有無を聞き取り、関係する部署・担当者へ繋ぐ。
電話 全員 用件を聞き取り、担当者へ引き継ぐ。

来訪時の応対だけではなく、電話対応も介護事務の仕事の一つです。
電話は、言語のみを使ったコミュニケーションであるため、相手の表情が分かりません。こちらの声・言葉遣い等で相手に与える印象が変わるため、丁寧に受け答えするように心掛けましょう。

会計業務

介護保険サービスの利用者は、かかった費用の1割〜3割(所得により異なる)を自己負担する必要があります。この自己負担は「窓口負担」ともいわれ、施設の受付窓口等で受け取ります。

介護事務は、この窓口負担に関する請求書・明細書を作成して、利用者またはその家族がスムーズな支払いができるよう事務手続きを行います。支払いに対する質問があれば、費用内訳の説明を行います。

介護事務に求められる知識

では、介護事務として働くうえでどのような知識が必要になるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

介護保険と医療保険に関する知識

介護事務は介護保険制度に関する知識だけでなく、医療保険制度に関する知識もある程度必要です。
なぜなら、多くの利用者が医療機関に通院し、さらに介護保険サービスを利用しているからです。
利用者が受けたサービスによっては、介護保険で請求するのか、医療保険で請求するのか判断しなければなりません。


また、利用者によっては、医療と介護それぞれのサービスを受けたことによって、自己負担の合算額が著しく高額である人がいます。
この場合、一定の条件を満たせば自己負担額を軽減する「高額医療・高額介護合算療養費制度」(参考6)を利用することができるため、介護事務はこの制度について、該当する利用者・家族に対して説明するとともに、利用に向けた事務手続きを行います。

介護事務に必要な資格

介護事務の仕事には無資格でも就く事が可能です。ただし、介護事務の募集は前述した知識を求めていることが多く、まったくの素人では採用される確率が下がってしまいます。
独学で介護保険や介護報酬について学ぶことも良いですが、せっかく勉強するなら、民間資格の取得を目指すこともおススメです。

介護事務には公的な資格はなく、民間の資格が複数存在し、どの主催団体・機関の資格試験を受けても介護保険や介護報酬について広く学ぶことが出来ます。
今回は一部の資格試験についてご紹介しますが、この他にも資格試験はありますので、興味がある方はご自身で調べてみてくださいね。

資格名 主催団体・機関 参考
介護報酬請求事務技能検定試験 日本医療事務協会 (参考7)
ケアクラーク技能認定試験 一般財団法人 日本医療教育財団 (参考8)
介護事務管理士技能認定試験 一般財団法人日本病院管理教育協会 (参考9)

医療事務との違い

医療事務は、病院等の医療機関に勤める事務職を指します。
医療事務と介護事務は多くの共通点はあるものの、勤務先や仕事内容に若干の違いがあります。次の表にまとめました。

勤務先 主な仕事内容
医療事務 病院
クリニック
診療報酬請求の業務
受付業務
患者対応
会計業務(患者による窓口支払い等)
事務的作業(カルテの管理等)
介護事務 老人ホーム
介護サービス提供事業所等
介護報酬請求の業務
受付業務、問い合わせ対応
会計業務(利用者による窓口支払い等)
事務的作業(書類の管理等)

仕事内容は似ていますが、業務の中心となるのが医療保険に基づく診療報酬請求なのか、介護保険に基づく介護報酬の請求なのかの違いです。
いずれの知識・経験を持っていると、就職活動では大きなアドバンテージとなるでしょう。

まとめ

この記事では、介護事務の仕事内容・必要な知識・資格等について紹介してきました。
介護施設では、利用者と直接ふれあう専門職だけではなく、それを支える介護事務がいます。介護保険制度に精通した介護事務の存在は、介護施設において大きな力となることでしょう。

参考文献

  1. 水口錠二(2021)『いちばんやさしい「介護事務」超入門 (New Health Care Management)』 ぱる出版 P10 (閲覧日:2022年7月30日)
  2. 一般社団法人 日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集(2021)「最新 社会福祉士養成講座 2 高齢者福祉」中央法規出版株式会社 P83~84(閲覧日:2022年8月1日)
  3. 公益社団法人 国民健康保険中央会 会員(国保連合会)https://www.kokuho.or.jp/about/kikou/inf_07.html(閲覧日:2022年7月29日)
  4. 神奈川県国民健康保険団体連合会 返戻の対処方法等について http://www.kanagawa-kokuho.or.jp/kaigo/pdf/kyufu/02.pdf(閲覧日:2022年8月1日)
  5. 水口錠二 同 P14
  6. 厚生労働省 高額医療・高額介護合算療養費制度について https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0724-1b.pdf(閲覧日:2022年8月1日)
  7. 日本医療事務協会 介護報酬請求事務技能検定試験とは http://www.japanmc.jp/kaigohoshu.html(閲覧日:2022年7月29日)
  8. 一般財団法人 日本医療教育財団 ケアクラーク技能認定試験 http://www.jme.or.jp/exam/cc/index.html(閲覧日:2022年7月29日)
  9. 一般財団法人日本病院管理教育協会 介護事務管理士技能認定試験 https://www.jh-mgt.org/kaigohokenjimu.html(閲覧日:2022年7月29日

引用文献

  1. 厚生労働省 介護報酬について https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/housyu/housyu.html(閲覧日:2022年7月29日)
  2. 厚生労働省 地域区分について https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000566688.pdf(閲覧日:2022年8月1日)
  3. 厚生労働省 同(閲覧日:2022年8月1日)