介護業界で注目のIoTとは?導入事例やメリット・デメリットを解説

昨今、介護業界ではIoTの活用が注目を集めています。しかしIoTという言葉を聞いたことがあっても、それが何なのかは知らない、介護業界でどう役立つのか分からないという人も多いのではないでしょうか?そこで今回は、IoTの意味や求められる理由、導入事例について解説していきます。

そもそもIoTとは

IoT(アイオーティー)とは「Internet of Things」の頭文字からできた言葉で、直訳すると「モノのインターネット」という意味になります。仕組みとしては、家電や建物など本来インターネットがつながっていないモノに通信機能を持たせることで、相互に情報を交換するというものです。

モノとインターネットがつながることにより、より暮らしがより豊かになったり社会問題が緩和したりすることが期待されています。昨今IoTは世界的に拡大しており、特に医療や産業用途においては今後大きな成長が予想されています。

参考:総務省ICTスキル総合習得教材[コース1]データ収集
参考:総務省IoTデバイスの急速な普及 第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済

身近なIoT活用例

IoTと聞くと難しく感じるかもしれませんが、実は私たちの身近なところにも普及しつつあります。たとえば、外出先から遠隔操作ができるエアコンや自動で室内を掃除してくれるロボット掃除機などはIoTの代表的な例のひとつです。家全体をIoT化して電力使用量や売電量を制御するシステムも登場しています。今後は衣服など身に付けるIoT(ウェアラブルデバイス)も普及していくと予想されています。

参考:総務省ICTスキル総合習得教材[コース1]データ収集

介護業界でIoT化が求められる背景

IoTはさまざまな領域で普及しつつある技術ですが、介護業界も例外ではありません。ではなぜ介護業界ではIoT化が求められているのでしょうか?ここでは介護業界でIoT化が求められる背景について説明していきます。

介護の担い手不足

ご存じの方も多いと思いますが、介護業界は少子高齢化により慢性的な人手不足に悩まされています。

内閣府のデータによると、日本の人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合は、1950年には5%未満だったのに対し1970年には7%、1994年には14%を超えました。そして2019年には28.4%に達しました。今後も高齢化はさらに加速すると予想されています。

高齢者の割合が増える一方で生産年齢人口が減少しているため、介護を必要とする人に対して介護の担い手は足りていないのが現状です。人手不足により労働環境が悪化し、さらに人手不足になるという悪循環に陥るケースも少なくありません。このままでは自分たちが高齢者になったときに満足な介護を受けられない可能性もあります。そのため介護業界では、不足するマンパワーを補う手段としてIoT導入が求められています。

参考:内閣府令和2年度高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況(第1節 1)

介護サービスの質の低下

介護現場の人手不足が引き金となり、介護サービスの質が低下することも懸念されています。厚生労働省の調査によると、介護施設職員による高齢者虐待の相談・通報件数は年々伸びており、ここ10年間で約5倍に増加しました。


出典:厚生労働省平成30年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果

そして虐待の発生要因としては、以下のようになっています。

  • 教育・知識・介護技術等に関する問題:58.0%
  • 職員のストレスや感情コントロールの問題:24.6%
  • 倫理観や理念の欠如:10.7%
  • 人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ:10.7%

要介護者自体が増えていることや通報義務が周知されてきたことを踏まえても、これらのデータから人手不足が介護の質に影響を及ぼしているのは明らかでしょう。そのため、介護サービスの質向上のためにもIoTの活用が急がれています。

社会保障費の増加

高齢化に伴い医療費や介護費といった社会保障費が増大している一方で、生産年齢人口は減少しています。保険料だけで社会保障費の財源を確保するのが困難化しているため、足りない分を税金や借金で賄っているのが現状です。今後はさらに高齢化が進み、いわゆる「団塊の世代」が後期高齢者である75歳以上になり始めるため、さらなる社会保障費の増大が懸念されています。

このような現状を受け政府は、健康寿命の延伸やIoT活用による介護現場の生産性向上を推進しています。たとえば薬の飲み忘れを防ぐメモリー機能を持った薬剤容器などにより、健康寿命の延伸そして社会保障費の抑制につながると期待されています。

参考:財務省これからの日本のために財政を考える なぜ社会保障関係費は増えるのか
参考:総務省ICT利活用の促進 医療・介護・健康分野の情報化推進

介護業界におけるIoTの動向

人手不足やサービスの質、社会保障費といった課題に対する手段として注目されるIoTですが、具体的にどんな使われ方をしているのでしょうか?ここでは介護業界のIoT動向として導入事例と支援事業を紹介していきます。

IoTの導入事例

介護現場では以下のようなIoT導入が行われています。

導入IoT 機能や効果
服薬支援システム 服薬のタイミングや量を管理できる薬剤容器など。
見守りシステム(接触型) ベッドにセンサーを搭載することで利用者の心拍や呼吸、睡眠深度などバイタルケアサインを遠隔で確認できる。
見守りシステム(非接触型) エアコンやドア、カメラなどに利用者の活動量や安否を確認できるシステムを搭載することで、遠隔からの見守りが可能になる。
コミュニケーションシステム センサーで高齢者を見守ったり声掛けをしたりできる介護ロボット。AI(人工知能)を搭載しているものもある。
排泄予知システム 腹部にセンサーを装着し、利用者が排泄するタイミングを予知する。排泄介助は介護者にも利用者にも負担が大きいので予知することには大きな意味がある。
その他業務の負担を軽減できるシステム コール履歴を自動で記録できるもの、介護データを集約できるもの、消耗品など備品の管理や発注をしてくれるものなど。

参考:内閣府平成29年度高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス4)

IoT導入に関する支援事業

介護業界のIoT導入を推進するため、国は補助金による支援活動を行っています。IoT導入に関する支援事業には以下のものがあります。

支援の概要 詳細
ICT導入支援事業 介護業務の効率化を狙いとした支援。介護ソフトやタブレット、Wi-Fi設置費などの補助を受けられる。 厚生労働省
介護ロボット導入支援事業 移乗支援や排泄支援、見守りなどの介護ロボット導入を推進する取り組みのひとつ。新型コロナウイルスの影響を受けて支援内容がさらに拡充した。 厚生労働省
IT導入補助金 中小企業や小規模事業者向けの補助金事業で介護業界も対象となる。会計業務の効率化ツールや社内SNSなどの導入時に利用できる。 一般社団法人サービスデザイン推進協議会

補助対象や上限額など支援事業の詳細については、運営元リンクにてご確認ください。

介護現場にIoTを導入するメリット・デメリット

国を上げて介護業界のIoT導入を推進しているだけあり、IoT導入には大きなメリットがあります。しかし良いことばかりではなく、状況によってはかえって非効率になってしまうことも少なくありません。そこで最後に、介護現場にIoTを導入するメリット・デメリットを紹介します。

メリット

介護現場にIoTを導入するメリットは主に以下の4つです。

  • 介護職員の業務負担を軽減できる
  • 介護サービスの質を向上できる
  • 緊急時にすばやく対応できる
  • 介護職員の定着率アップ

従来の介護現場では紙ベースの情報共有や頻繁な見回りが行われてきましたが、IoTを活用すれば業務が効率化され介護職員の負担軽減が期待されます。人為的なミスの削減にもつながるため、結果としてサービスの質向上にもつながるでしょう。

また、見守りシステムなどにより利用者の健康状態をチェックしやすくなるため、急変時や事故が起こったときなども迅速に対応できます。業務効率化とリスク管理が進むことにより、職員の定着率アップ業界イメージの向上にもつながるでしょう。

デメリット

介護現場にIoTを導入することには以下のようなデメリットが挙げられます。

  • 導入費用や維持費が高い
  • 介護職員の教育が必要
  • 情報漏えいのリスク

IoT導入において大きなネックとなるのが導入費用や維持費の高さです。インターネット環境の整備や機器・ソフトの導入費用、維持費が必要になるため、導入したくてもできない施設もあるのが現状です。

また、せっかくIoTを導入しても職員が使いこなせなければ効果的な活用はできません。職員の中にはモバイル機器になじみがない世代も多いため、情報漏洩のリスクを回避するためにもしっかりと教育し慣れさせていく必要があるでしょう。

まとめ

介護現場にIoTを導入することには、業務負担を軽減させるだけでなく、サービスの質向上や緊急時の対応の迅速化など利用者にとってもメリットがあります。導入コストや職員の教育などクリアしなければならない課題もありますが、効果的な活用ができれば業界全体のイメージアップや持続可能な社会にもつながるでしょう。

Leave a Reply

Your email address will not be published.