介護事業所が取り組むべき離職防止対策と具体的な施策

介護業界は深刻な人員不足に陥っています。新しい職員を迎え入れてもすぐにやめてしまう、そんな経験をした方も少なくないでしょう。介護労働実態調査によると、入職した介護職員の約6割は3年以内に離職していることがわかりました。

この記事では、介護職員が退職する原因について解説し、離職率が低い介護施設になるための対策をご紹介します。介護職の人材不足にお悩みの方は、ぜひご一読ください。

介護職の離職の現状について

介護職の離職率は徐々に低下していますが、人員不足に悩む施設も多いようです。
令和3年度 介護労働実態調査」によると令和3年の離職率は14.3%で、ここ15年間の離職率は減少傾向にあります。一方で、約6割の施設で人員不足を感じているというデータが出されています。

以上のデータから、離職率は低下しているにもかかわらず、多くの施設が人員不足を感じている実態がわかります。その原因として、定着率の低さと転職しやすい環境が挙げられるでしょう。

介護職の定着率は低い

介護職の定着率は低いようです。
令和3年度 介護労働実態調査」によると、職員の平均勤続年数は6.8年でした。さらに、離職した人の58.7%が3年未満で退職する、という数値も出されています。

以上のデータをまとめると、約6割の人は3年未満で退職する可能性が高く、それ以上働いたとして6.8年しか勤務しない可能性が高いといえるでしょう。
調査結果から、長く働く介護職は少ないことがわかります。

介護職の有効求人倍率は高い

令和5年1月に厚生労働省から発表された「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」によると、介護サービスの職業の有効求人倍率は4.01倍、前年同月比で+0.19倍です。

つまり、1人の介護職に対して4つの施設が求人をかけている状況です。介護職にとっては、転職しやすい環境といえるでしょう。

さらに、「介護サービス施設・事業所調査」の令和2年と令和3年のデータを比較すると、介護老人保健施設と介護療養型医療施設以外の全ての介護施設数が増加しています。

介護職の有効求人倍率は高く、求人を出す施設も増加傾向にあることから、介護職にとって転職しやすい環境は今後も続く可能性が高いでしょう。すぐに転職先が見つかる環境も、介護職の定着率を下げる要因となっています。

介護職の主な離職要因とは

離職する際に、多くの人は人間関係の問題やライフステージの変化、将来性への不安を理由に離職しています。

上位退職理由
  1. 職場の人間関係に問題があったため
  2. 結婚・出産・妊娠・育児のため
  3. 自分の将来の見込みが立たなかったため

令和3年度 介護労働実態調査」によると、前職を辞めた理由として「職場の人間関係に問題があったため」が 18.8%で最も高い数値でした。 次に「結婚・出産・妊娠・育児のため」が 16.9%、そして「自分の将来の見込みが立たなかったため」が15.4%、というデータが出されています。

以上のことから、人間関係やライフステージの変化、将来性ということを理由に離職しやすいことがわかります。では、ここからは退職理由についてより詳しく見ていきましょう。

職場の人間関係へのストレス、不満

介護職の離職理由として1番多いのが人間関係の問題です。

介護現場では、複数のスタッフが協力して業務を遂行する必要があります。複数のスタッフが協力する現場だからこそ、ちょっとした認識の相違でトラブルが発生します。人間関係が問題で業務を遂行できなくなる可能性もあるため、悩んでしまう職員が多いようです。

また、利用者へ直接的にサービスを提供する業種なので、利用者や利用者の家族と人間関係のトラブルに巻き込まれる可能性も高い職種といえるでしょう。

労働環境に対する不満

身体的な負担が大きいことも離職につながる要因の1つです。

介護現場では、多くの利用者が身体介護を必要としています。特に、体重の重い利用者を移乗させる際や、入浴介助を行う際に職員の身体へ大きな負担がかかります。身体へ負荷のかかる業務が増えると、けがなどの体調不良を理由に離職するケースも少なくありません。

また、若い時期は問題なく行えていた業務も、年齢を重ねると体力的に業務を遂行できなくなります。体力の衰えを感じて離職する人も多いでしょう。

結婚、出産、親の介護などライフスタイルの変化

ライフスタイルの変化によって離職する人も多いようです。介護施設を運営するためには、人員の配置基準を満たす必要があります。少ない職員で配置基準を満たすためには、一人当たりの勤務時間を長くせざるを得ません。

特に人手不足の職場では、職員1人あたりの勤務時間が長くなる傾向があり、柔軟な働き方が難しくなります。仮に、短時間勤務ができない職場の場合、結婚や出産を機に転職する職員が多くなる可能性は高いでしょう。

企業、施設としての理念や考え方、方針に対する不満

勤務する施設の理念や方針と、自分の価値観が一致せずに離職する介護職もいます。

特に、組織の方針や運営体制が変更された時に職員は不満を抱きやすいでしょう。例えば、職員が「自立支援を重視して時間をかけてケアをしたい」と思っていても、組織全体で「収益性を重視するため可能な限りケアの時間を短くしたい」という方針に変更した場合、職員は不満を抱えます。

施設の考え方や方針に同意できないと、仕事へのモチベーションが上がらず、離職を考える職員も増えるでしょう。

施設として何故離職率を下げなくてはならないのか

離職率が高いと現場の人手不足が常態化し、さまざまな悪影響を及ぼします。人手不足の常態化により、常に新しい職員を募集し続けるため、採用コストが大きな負担になります。

また、経験年数が短いスタッフだけで業務を遂行すると、サービス品質が低下する可能性もあります。

離職率の高い職場では、採用コスト増加による経営状況の悪化とサービス品質の低下という状態に陥りやすいので注意が必要です。

常に採用にコストをかける必要がある

離職率の高い職場では、常に採用コストをかけ続ける必要性があるため、施設の収益性が悪化します。

採用コストとされるものとして、求人広告掲載費、面接対応する職員の人件費、研修費用、新入社員の初期給与などが想定されます。これらを合算すると、1人採用するのに数百万円のコストが必要です。常に多額の採用コストをかけ続けることで、施設の収益性を低下させます。

定着率が悪いと教育コストが無駄になってしまう

定着率が低いと、余計な教育コストが必要になります。新人を教育する職員は、教育期間中に自分の業務を遂行できません。そのため、新入職員の給与や、教育する職員の給与などの教育コストが必要です。離職率の高い職場は、新入職員がすぐに退職するため、教育コストが無駄になる可能性があります。

また、チームメンバーが常に入れ替わるため業務効率が低下します。介護現場ではチームで業務を遂行するため、職員間での信頼関係が業務効率に深く関わっています。一方で、常に新しい職員が入ってきてチームメンバーが入れ替わる状況だと、信頼関係を構築できていないため、業務効率も低下する可能性が高いでしょう。

人員体制の確保に影響が出ることで運営自体に支障が出てしまう

離職率の高い職場は、運営を続けられなくなる可能性があります。
介護施設を運営するためには、人員配置基準を満たさなければいけません。安定した人材確保ができないと、人員配置基準を満たせない可能性が高くなるでしょう。

仮に基準を無視して運営した場合、業務停止命令を受ける可能性もあります。逆に、少ない人員で定員以下の利用者しか受け入れられないと、収益性が低下します。

求人倍率が高い介護人材業界では、人材を確保できずに閉鎖する施設も少なくありません。

施設が離職率を下げるために取り組むべきこととは

介護職の離職率を下げるために、職員が働きやすい環境を整備する必要があります。
職員が「働きにくい」と感じた時点で離職につながるため、職員の働きやすい環境を整備すると離職率が下がるでしょう。

例えば、研修制度を充実させる、ICTを活用して業務の負担を軽減させる、人事考課基準を明確にする、などの方法があります。

また、職場の風土改善を図ることも重要です。例えば、職員同士でのコミュニケーションを促進するツールを導入する、職場内でのルールを明確化する、といった方法があります。離職率を下げるためには、環境整備と風土改善を行って職員が働きやすい環境を作るとよいでしょう。

職員の教育体制の構築と実施

職員にもわかりやすいように教育体制を明確に決めることが重要です。

介護業界では、OJTのみで教育していく施設が少なくありません。しかし、教育計画を明確にしなければ、新入職員のスキルに差が生まれるため、現場に出た際にトラブルが発生しやすくなります。

入社してから現場に出るまでの教育マニュアルを作成して、定期的に職員研修を開催するとよいでしょう。

職員間での情報共有とコミュニケーションを円滑に取れる仕組み作り

職員間でのコミュニケーションコストを下げる工夫も大切です。

介護現場では、急なトラブルが発生しやすいため、常に職員同士で情報を共有する必要があります。コミュニケーションコストが高いと職員がストレスを抱えるようになり、離職につながる可能性もあります。

例えば、便利なコミュニケーションツールを導入して情報共有の方法を改善する方法があります。

定期会議を開催し、意見交流できる場を作ってもよいでしょう。

職員の適正な評価軸の作成と評価をする

人事考課の基準を明確化すると職員からの不満が発生しにくくなります。

介護の仕事は、業績を数値化するのが困難です。誰がどれくらいの成果を出しているのか比較する方法がないので、人事考課の基準が不明瞭だと職員が不満を感じやすくなります。

例えば、上司と面談を行い、職員ごとに目標を設定するとよいでしょう。目標を明確に決め、目標までのプロセスを評価基準にすることで人事考課を行いやすくなります。

また、定期的に目標達成までの進行状況を共有し、職員への適切なフィードバックを行うことで職場への満足度も向上するでしょう。

業務効率化による生産性の向上に取り組む

業務の効率化によって生産性を向上させることで、職員への負担が軽減されます。

業務を効率化させると、職員は少ない労力で多くの業務をこなせるようになります。業務プロセスを見直し、自動化できるところは自動化していきましょう。例えば、作業手順を明確にしてチェックリスト形式にする、ITツールを活用する、といった方法があります。

また、職員の生産性が向上すれば、職員の離職を防ぐだけでなくサービス品質の向上にもつながります。

福利厚生やサポート制度を充実化する

福利厚生を充実させることで離職を防ぐこともできます。

例えば、資格取得支援制度を充実させる、リフレッシュ休暇を導入する、といった方法もあります。ただし、多くの職員は福利厚生の内容よりも職場環境を重視するので効果は限定的です。

職場環境の改善を行ったうえで余力があれば、福利厚生も充実させるとよいでしょう。

ポイント
  • 教育マニュアルの作成や研修の機会を設ける
  • 定期会議を行いコミュニケーションの場を設ける
  • 目標設定や評価基準を明確にしモチベーションを高める
  • 上長との面談機会やフィードバックの時間を設ける
  • ITツールの導入で生産性向上に取り組む

職員の満足度を上げるために今すぐ施設が取り組むべきこと

介護職離職対策として、まずは現状を把握することから始めましょう。

現場の問題点を把握せずに経営者側の意見だけで課題解決に取り組んでも、職員の満足度を上げることは困難です。現状を把握する手段として、従業員サーベイを行う方法もあります。職員が満足していること、不満に思っていることを調査すれば、何を改善すべきか見えてきます。

労働時間の見直しも大切です。例えば、できるだけ残業を減らす、短時間勤務を導入する、などの体制を作ることで、職員が働き方を柔軟に選べるようになります。柔軟な働き方が選べることで、職場への満足度も向上するでしょう。

まとめ

介護職の離職率は徐々に低下していますが、定着率は低いようです。約半分の職員は3年以内に退職する傾向があり、有効求人倍率も高いため、多くの施設が人材確保に苦労しています。

職員の定着率が低いと収益性とサービス品質が低下する可能性があるため、積極的に職員の定着率向上に向けて取り組む必要があるでしょう。

具体的には、職員の教育体制の構築や生産性向上、人事考課の基準を見直す、ということが挙げられます。これらの離職対策により、職員の満足度が向上し離職率が低い施設になるでしょう。

現状の課題を分析し、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

参考サイト

この記事を書いた人

野田晃司
作業療法士として病院勤務を経験後、複数の福祉施設を運営する会社経営に携わる。2ヶ所の通所介護施設を立ち上げ後、施設管理者を8年経験。現在も介護施設で働きながらライターとして活動中。

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