【介護施設の管理者必見】BCP(事業継続計画)の作成方法とポイントとは

令和3年度介護報酬改定において、介護事業者においてもBCP(事業継続計画)の策定が義務化されることになりました。
2021年から2024年3月31日までの経過措置が設けられていますが、2024年4月からはすべての介護事業者がBCPを策定し、災害などの緊急事態に備えておかなければなりません。

介護施設におけるBCP(事業継続計画)とは?

BCP(事業継続計画)とは、地震等の自然災害や、感染症のまん延、大事故、大事件といった不足の事態が発生した際も、事業を中断させない、または中断した場合も可能な限り短い時間で復旧させるための方針、体制、手順を示した計画です。

新型コロナウイルス等感染症や大地震などの災害が発生すると、通常通りに業務を実施することが困難になります。このような有事の際でも業務を中断させないように準備するとともに、中断した場合でも優先業務を実施するため、あらかじめ検討した方策を計画書としてまとめておくことが求められるようになりました。

特に介護施設等においては、一般の事業に比べて「生命の危険に直接かかわるリスク」が高く、事業継続の社会的責任も負っていることから、感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制の構築が求められています。

感染症と自然災害では、対応すべき内容が異なるため、BCP対策もそれぞれ策定しておく必要があります。

感染症対応について

新型コロナウィルスやインフルエンザは、介護施設等の利用者でもある高齢者や疾患のある方が特に重症化しやすく、生命の危険も大きくなります。

感染症の拡大が予想される状況では、業務の縮小や事業所の閉鎖も想定して、利用者への影響を極力抑えるよう事前に対策を検討する必要があります。

自然災害対応について

自然災害時には、介護施設等の利用者は若い人や健康な人に比べて避難が難しく、また停電によって医療機器が停止すると直接生命の危険に繋がります。

自然災害が発生した場合、介護事業者は利用者や職員の避難誘導や安否確認の作業、インフラの停止やライフラインの寸断によっては利用者へのサービスを一時的に停止、減らす必要があります。情報収集を迅速に行い重要業務を優先して、事業の継続・復旧を行うことが重要です。

介護施設におけるBCP策定の状況

NTTデータ経営研究所による介護施設・事業所のBCPの取り組み調査の報告書(2021年11月実施)によると、事業所・施設の27.1%が感染症BCPを策定済みであり、3年の経過措置期間が終了する2024年3月までに、75.5%が策定する見込みとなっています。

「策定する目途は立っていない」と回答した事業所・施設は21.5%あり、他の回答と比べて高かったサービス種別は、訪問介護、通所介護、通所リハビリテーション、居宅介護支援、認知症対応型共同生活介護でした。

また、自然災害BCPについては、25.9%の事業所・施設が策定済みで、74.5%が2024年3月までに策定見込みとなっています。

「策定する目途は立っていない」と回答した事業所・施設は22.0%あり、他の回答と比べて高かったサービス種別は、訪問介護、通所介護、通所リハビリテーション、居宅介護支援、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護でした。

介護施設BCP(事業継続計画)の策定の流れ

一から完璧なBCPを作成するのは時間も手間もかかってしまうので、まずは厚生労働省が作成しているひな形を使用し、自施設に合わせた内容を記入しながら作成していくと良いでしょう。

ひな形はこちら

BCPを作成する際に重要なポイントは、以下の5つです。上記ひな型と合わせて、様式ツール集を活用し、順番に作成していきます。

STEP.1
役割分担と情報共有フローの決定
全体の意思決定者と、「誰が」「誰に」「何を」するのかを決め、関係各所の連絡先を整理しておきます。
STEP.2
感染(疑い)者又は災害が発生した場合の対応
有事の際にもサービスを継続できるよう予め対応を整理して、平時から訓練(シミュレーション)を行っておく必要があります。また、必要な物資を整理、準備しておくことも欠かせません。
STEP.3
職員確保
職員の感染や交通網の遮断等による職員不足の可能性に加えて、業務量の増加も想定されます。予め、下記のような方法で緊急時の人員補填体制を決めておきます。

  • 法人内の別施設からの応援体制を整備しておく
  • 他法人と連携して、緊急時に人員を補填し合うように約束しておく(地域内、広域)
  • 近隣に住む退職者やボランティアに緊急時のフォローを予め依頼しておく等
STEP.4
業務の優先順位の整理
職員やライフラインが不足した場合でも、介護事業者にはサービス提供を維持して行く使命があります。可能な限り、必要なサービスを継続していくためにも、予め「優先すべき業務」「追加される業務」「削減できる業務」などを決めておくことが重要です。

BCPを策定しても、いざという時に活用できなければ意味がありません。BCPを策定することが重要ということではなく、実際に感染症や災害が発生したときに、被害を抑え業務が継続できるという実効性が確保されていることが重要です。BCP策定時に研修や訓練、見直しのスケジュールも決めておくと良いでしょう。

また、自治体や事業者団体などが開催する研修の受講や、厚生労働省による参考資料の確認、事業所・施設における研修・訓練等を通じて内容の見直しを行うなど、策定したBCPのブラッシュアップをすることで、それぞれの事業所・施設にあったBCPに近づけていくことが重要です。

介護施設BCP(事業継続計画)を策定する上でのポイント

介護施設等の利用者の多くは日常生活・健康管理、さらには生命維持の大部分を介護サービスに依存しており、サービス提供が困難になることは利用者の生活・健康・生命の危険に直結します。

他の業種と比較して、介護施設等はサービス提供の維持・継続の必要性が高く、BCPを策定するうえでも、下記の点を重視する必要があります。

ポイント
  • 介護サービスを中断させないために、サービス提供に必要な資源を守ること
  • 介護サービス提供に必要な資源は、職員、建物・設備、ライフライン(電気・ガス・水道)があること
  • 介護サービスが中断してしまった場合は、サービス提供に必要な資源を補って、速やかに復旧させること
  • 職員が不足し、ライフラインが停止することを踏まえ、重要業務に優先して取り組むこと

感染症対策BCP策定のポイント

感染症の拡大が予想される状況下では、業務の縮小や事業所の閉鎖も想定しつつ、利用者への影響を極力抑えるよう事前に対策を検討する必要があります。

BCPのガイドラインでは「平時対応」「感染疑い者の発生」「初動対応」「感染拡大防止体制の確立」の4つの段階(通所系サービスでは「感染拡大防止体制の確立」の前に「休業の検討」という項目が入る)に分けられており、それぞれのひな形に沿って作成することができます。

前項で記載した5つのポイントに加えて、感染症対策BCP策定に盛り込むべき内容は、以下の通りです。

1.平時対応

  • 感染防止に向けた取り組みの実施
  • 防護具、消毒液等備蓄品の確保

2.感染疑い者の発生・初動対応

  • 第一報(報告ルート、報告先、報告方法)
  • 感染疑い者への対応
  • 消毒・清掃等の実施

3.感染拡大防止体制の確立

  • 保健所との連携
  • 濃厚接触者への対応
  • 職員の確保
  • 防護具、消毒液などの確保
  • 情報共有(感染者が発生した場合の情報共有先)
  • 業務内容の調整(優先順位を踏まえ、職員の出勤状況に合わせた業務調整)
  • 過重労働・メンタルヘルス対応(不安やストレスが軽減できるような体制)

自然災害

自然災害が発生した場合、介護事業者は利用者や職員の避難誘導や安否確認の作業、被害状況によってはインフラの停止、ライフラインの寸断等によって、利用者へのサービスを一時的に停止、または減らす必要が生じます。

情報収集を迅速に行い重要業務を優先して、事業の継続・復旧を行う体制を整えることが重要です。自然災害BCPも厚生労働省が公表しているガイドラインとひな形を活用して作成していきましょう。
 
自然災害時のBCPには、5つの段階があり、それぞれについて定めるべき項目が決まっています。

1.総論

  • 体制の整備
  • 「自施設の理解」と「被害の想定」
  • 災害時の対応内容を徹底周知
  • PDCAサイクルの実施

2.平常時の対応

  • 自施設の安全対策
  • ライフライン等の事前対策
  • 災害時に必要となる備蓄品等の確保

3.緊急時の対応

  • 初動対応の事前対策
  • 人命安全確保対応の徹底
  • 重要業務の継続
  • 復旧対応

4.他施設との連携

  • 連携体制構築の検討
  • 連携体制の構築・参画
  • 連携対応

5.地域との連携

  • 被災時の職員派遣
  • 福祉避難所の運営

介護施設のBCP作成のスケジュール感

介護施設等のBCP作成にあたって、まずは策定担当者を決め、厚生労働省による研修資料を見てみましょう。動画でも解説しているので、BCPの概要や策定手順について理解することができます。

また、公益財団法人介護安定センターの各支部においても、BCP策定研修や無料相談、アドバイザー派遣等を行って介護事業者のBDP策定を支援していますので、チェックしてみてください。

介護事業者のBCP作成は、以下の手順で進めていきます。(かかる期間は目安です。)

STEP.1
現状分析(1週間)
既存のBCPやそれに類するもの(防災計画等)が、介護事業者のBCPとして対応できているのかを把握します。
STEP.2
想定されるリスクの分析(3~4週間)
自然災害、感染症において自施設で想定されるリスクを洗い出します。特に自然災害については、地理的特徴による影響があるため、地域のハザードマップを確認したり、過去の災害も踏まえて想定されるリスクを洗い出しておくことが重要です。
STEP.3
事業への影響度の検証(6~8週間)
2で洗い出したリスクが事業にどの程度影響するかをシミュレーションします。程度別に複数のパターンでシミュレーションし、影響度の大きいパターンまで想定しておく必要があります。
STEP.4
優先業務の選定・対応方法の検討(4~6週間)
日常業務の中で、優先的に対応すべき業務を決定しその対応方法を洗い出します。また、対応するために必要な資源が揃っているかも確認しましょう。
STEP.5
BCPの作成(3~4週間)
決定事項をカテゴリごとにBCPとして可視化していきます。厚生労働省のひな形を活用することでわかりやすく可視化することが可能です。ある程度完成した段階で関係者間で共有し、方向性を確認しておくといいでしょう。
STEP.5
運用ルールの決定(1~2週間)
BCPの研修や訓練のスケジュール、実施方法や見直し時期など、運用に関するルールを決めておきます。

介護施設において策定が義務化

令和3年度介護報酬改定で、介護事業者に対しBCPの策定、研修、訓練等が義務化されました。

感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築するという目的です。

現在のところ、BCPを策定しなかったことに対する罰則は設けられていませんが、義務化されているにもかかわらずBCPを策定していなかったり、運用ができていない状態で利用者や職員の人命や健康に被害が及んだ場合、訴訟による賠償責任を負う可能性もあります。

また、災害や感染症への対策に不備があると、報道やSNSなどを通じて社会的責任についても問われる可能性があり、BCP策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施は介護事業者の健全経営に欠かせない要素となってきています。
 

まとめ

近年では、自然災害の多発に加え、新型コロナウィルスの感染拡大など介護事業者にとって対策を迫られる緊急事態が増えています。

「感染症や災害から利用者と職員を守り、介護サービスを継続するため」に、またリスク管理の観点からも、できるだけ早くBCPの策定に着手しましょう。

参考サイト

この記事を書いた人

井上 みち子
都内の社会保険労務士法人に勤務する社会保険労務士。
前職は独立行政法人福祉医療機構で、15年以上にわたり福祉・医療現場の経営支援等の業務を行い、その後社会保険労務士法人に転職。現在は、クライアント先の労務整備、労務相談、採用支援、職場定着支援などを行なっている。

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