「介護施設が取り組むべき研修について知りたい」「効果的に研修を行うポイントを知りたい」という施設長の方、管理者の方は多いのではないでしょうか。
介護施設が研修を実施することは、法令で定められています。未実施の場合、介護報酬を減算されることもあるので注意が必要です。
そこで今回は、介護施設が取り組むべき研修や効果的に実施するためのポイントについて解説します。
身体拘束の排除に関する研修
令和4年度4月に「身体拘束の適正化」が義務付けられました。また令和5年4月より、以下の基準を満たしていない場合には基本報酬から減算となります。
- 身体拘束等を行う場合には理由などの必要事項を記録する
- 身体拘束等の適正化委員会を定期的に開催し、その結果を従業者に周知徹底すること
- 身体拘束等の適正化のための指針を整備する
- 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的(年1回以上)に実施する
身体拘束の対象者がいない場合も、施設側で身体拘束に対応できる体制の準備が必須です。基準を満たしてない場合は、身体拘束廃止未実施減算の対象となります。(5単位/日)
以上の通り、身体拘束等を適正化するための研修を年1回以上開催しなければなりません。
研修内容については、施設の指針に基づいた研修プログラムを実施する必要があります。
また新人職員が入職した際にも、実施が必要です。研修の実施記録(内容・日時・参加者を記載)を残すことも義務付けられています。
BCP(業務継続計画)研修
BCP(業務継続計画)とは、感染症や自然災害などの緊急時に、どのように対応して事業を継続または早期復旧させるかをまとめたものです。
介護事業所は高齢者の生活を支える存在であり、緊急時にも介護サービスを継続することが求められています。
感染症対策に関する研修
新型コロナウイルスなどの感染拡大に備えて、事前に準備や研修を実施する必要があります。一時的に閉鎖や業務縮小をする場合でも、利用者への影響を最小限に留める必要があるからです。
研修では、限られた人数で感染防止対策を行いサービスを継続できるかを想定しなければなりません。危機発生時に迅速な行動ができるように、平時から研修や訓練を行う必要があります。
自然災害時の対応に関する研修
自然災害への対策は、施設の立地条件によって大きく異なります。よって、BCPは施設・事業所単位で作成しなければなりません。
また被災時に計画を実行するには、平常時からの研修や訓練(シミュレーション)を繰り返す必要があります。
そして新たに発見された課題を見直し修正を繰り返すことによって、その施設に適した計画が出来上がるのです。
事故発生又は再発防止に関する研修(福祉用具含む)
利用者が安心して施設を利用するためには、事故発生や再発防止に関する研修が必要です。スタッフ全員で、過去に発生した事故を振り返ってみるのもよいでしょう。
原因分析を行い再発防止策を出し合うことで、当事者意識を持つ効果も期待できます。
ヒヤリハットの見直しも重要です。「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というハインリッヒの法則があります。
スタッフ全員が軽微な事故の原因を調査し、事故防止の意識を共有することは非常に重要です。
また福祉用具に関する事故の多くは、利用者や介護者の誤使用や不注意から発生していると報告されています。
厚生労働省よりヒヤリハット事例集が公開されていますので、研修を実施する際の参考にしてください。
高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修
平成18年に高齢者虐待防止法が施行され、高齢者虐待を防止・早期発見することが定められました。
「高齢者虐待防止法20条」では、介護施設従事者等に対し高齢者虐待防止の為の研修実施を行うことが義務付けられています。
また令和4年4月より障害者虐待の防止を目的とし、以下の要件が義務化されました。
- 虐待防止委員会の開催(年1回以上)
- 虐待防止研修の実施(年1回以上)
- 虐待防止責任者の配置
研修については、内部研修と外部研修のどちらを行っても構いません。ただし研修対象者は、関係職員全員に対して行うことが望ましいとされています。
つまり介護職員に加えてドライバーや事務、宿直業務のスタッフも対象となるのです。
研修内容については、特に定められていません。全職種が受講することを考慮し、「虐待の定義」など基礎的なものから始めるとよいかもしれません。
認知症及び認知症ケアに関する研修
2021年4月、全ての介護職に「認知症介護基礎研修の受講」が義務化されました。2024年3月までは、経過措置として努力義務となっています。
介護職員初任者研修など、一定の資格を持つ人は義務化の対象外です。
現時点では、無資格者が介護職として働くことはできます。しかし2024年3月までには、認知症介護基礎研修を受講しなければなりません。
認知症介護基礎研修はeラーニングで受講可能です。トータル6時間で認知症対応の基本を学びます。詳細は、各都道府県のホームページ等でご確認ください。
プライバシーの保護の取り組みに関する研修
利用者の個人情報を他に漏らすことは、守秘義務の違反に当たります。介護福祉士法においても「秘密保持の義務」から、利用者の情報を口外できないと定められているのです。
また入浴や排せつ介助などのサービスを提供する際には、利用者の羞恥心を考慮することも必要です。
プライバシーの保護の取り組みに関する研修では、下記の3点を中心に議論をすると良いでしょう。
- 利用者の個人情報を口外していないか
- 排泄介助などの際に、ドアを開放していないか
- SNSなどで個人情報を発信していないか
接遇マナーに関する研修
接遇マナーを学び実践することによって、利用者や家族と信頼関係を築くことが可能です。またスタッフ間の雰囲気もよくなり、チームワークや業務効率の向上も期待できます。
接遇の乱れが高齢者虐待につながるとも言われており、「虐待の芽を摘む」効果も期待できるのです。
「接遇マナー5原則」は以下の通りです。
- あいさつ・声掛け
- 身だしなみ
- 言葉遣い
- 表情・笑顔
- 態度
研修では、以上の5つを実践できているかを確認しておくとよいでしょう。
倫理及び法令遵守に関する研修
倫理とは、人として守るべき道徳やモラルを指します。また法令遵守はコンプライアンスとも呼ばれ、法律や約束を守ることです。
介護事業者は倫理や法令を守ることによって、利用者・家族・行政・地域から信頼を得る必要があります。
信頼を得るためには、職員全員が倫理やコンプライアンスの重要性を理解しなければなりません。
研修では、日頃の業務を振り返って「倫理やコンプライアンスを守れているか」を確認してみるとよいでしょう。
具体的には、下記のポイントを中心に確認してみてはいかがでしょうか。
- 利用者に対しての礼節は守れているか
- 専門職としての自覚を持っているか
- スタッフ間の言葉遣いやマナーはどうか
- 人員基準を守れているか
- 必要な記録を残せているか
介護予防及び要介護度進行予防に関する研修
介護職は、利用者の自立やQOL向上を目的としてサービスを提供しなければなりません。介護保険法第4条では、以下のことが定められています。
- 国民は健康を保持し、要介護状態になるのを予防する
- 要介護状態になっても、福祉サービスを利用して能力の維持向上に努める
また介護保険法第115条においても「介護職は、利用者が地域で自立した生活を営むように支援しなければならない」と定められています。
よって介護事業者は「利用者の自立」を目的として、介護サービスを提供する必要があるのです。
研修の中では下記のポイントを中心に意見を交換するとよいでしょう。
- 利用者の生活の質(QOL)向上を意識しているか
- 利用者の自立を目指せているか
- 利用者が楽しみや生きがいを持てる関りをしているか
研修を効果的に実施するポイント
ここからは、研修をより効果的に実施するポイントを3つ紹介します。
- 事前に動機付けをする
- 事例を用いて話し合う
- 研修資料を活用する
それでは、順番に解説していきます。
事前に動機付けをする
受講するスタッフへ事前に研修目的を伝え、動機付けを行うことが重要です。
- なぜ実施するのか
- どのようなことを学んでほしいのか
- 受講者にどのようなことを期待しているか
などを研修前に伝えておくとよいでしょう。参加者が前向きに受講することで、より大きな効果が期待できます。
事例を用いて話し合う
具体的な事例を用いて話し合いを行うことも大切です。実際に施設で起こった事故やヒヤリハットなどを取り上げるのもよいでしょう。
話し合うことにより、スタッフは事例を「我が事」として捉えることができます。「再発防止のために何ができるか」「サービスの質を向上させるには、どうすればいいか」などについて自ら考えてくれるでしょう。
研修資料を活用する
余裕があれば、研修資料を作成し活用するのも効果的です。「自分たちがレベルアップするために必要なこと」にフォーカスした研修資料であれば、参加スタッフの意識も向上します。
分厚いマニュアルよりも簡単にまとめた研修資料を用いて説明されることで、集中して受講してくれるのです。
立派なものでなくても、A4用紙一枚でも構いません。時間に余裕がある時に、ぜひ作成してみてください。
まとめ
今回は、介護施設が取り組むべき研修について解説しました。
介護施設には、法的に研修を実施することが求められています。中には、実施しなければ介護報酬を減算されてしまうこともあります。
また、施設のレベルアップをする上で、研修は有効です。事前に研修の目的を参加者に共有することで、より効果的な場となります。
今回の記事では、具体的にどんな研修をするべき、研修時で意識するべきポイント等をご紹介しました。ぜひ効果的な研修を開催する参考になれば幸いです。
参考サイト
この記事を書いた人
現役ケアマネジャー。 「分かりやすく人に伝える」をモットーにWebライターとしても活動中。デイサービスやグループホームでの管理者経験あり。 介護福祉士、認知症ケア専門士、第1種衛生管理者の資格を保有