福祉や教育業界の求人を比較すると「療育」という言葉を目にすることもありますよね。しかし、聞いたことがあってもどんな事をするのか知らないという人も多いでしょう。
ここでは、療育とは何か、どんな種類がありどこで受けられるのかについて解説します。難しい説明は苦手、だけど詳しく知りたいという方はぜひ参考にしてください。
記事でわかること
療育とは
療育とは、『発達支援』ともいわれることがあり、心身に障害を持つ子どもに対して、社会的に自立した生活を送れるように行う治療・教育のことです。もともとは身体障害を持つ子どもへの支援でしたが、現在では知的障害や発達障害などを持つ子どもも対象とされています。
厚生労働省が定める療育の定義
『療育』というものが何なのか分かったところで、厚生労働省が定める児童発達支援ガイドラインの中で、療育がどのように定義されているのかを見てみましょう。
引用:厚生労働省「児童発達支援ガイドライン 第1章の3 児童発達支援の役割(1)」
児童発達支援や放課後等デイサービスで行われる療育
療育には、日常生活をスムーズに行うための支援や遊びを通したコミュニケーション能力の向上、運動機能の向上、認知能力の向上などさまざまな内容が含まれます。また、子ども本人だけでなく、家族支援や地域支援など幅広い支援を含む場合もあります。
子どもはひとりひとり発達スピードが異なるため、個々の特性に応じた支援をすることが大切だと考えられています。
児童発達支援とは?仕事内容や職種、持っていると役立つ資格、やりがいについて詳しく解説! 放課後等デイサービス(放デイ)とは?仕事内容や職種、持っていると役立つ資格、やりがいについて詳しく解説!療育の種類
ひとくちに療育と言っても、アプローチ方法によっていくつかの種類があります。実際の療育現場では、子どもが持つ障害の種類や程度、特性などに応じて、さまざまな方法が行われます。ここでは、代表的な療育の種類を5つ紹介します。
応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)
応用行動分析とは、環境を変えるとどのように行動が変化するかを分析することで、「強化」「弱化」「消去」の3つの基本原理があります。強化は行動後に良いことが起こるとその行動が増加する、弱化は良くないことが起こると減少するというもの。
消去は、行動後に何も変化がないとその行動が減少することを言います。行動の法則を見出すことで、行動の予測や制御を目指すことが可能になります。
問題行動を適正な行動に変化させること。
【方法】
なぜその行動をしてしまうのか「きっかけ」を分析し、「結果」にアプローチする。
【事例】
「強化」:宿題をやると褒められる→宿題をやるようになる
「弱化」:お手伝いをしても褒められない→お手伝いが減少する
「消去」:食べ物を投げると叱られる→食べ物を投げなくなる
TEACCH
TEACCHは「Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children」の略です。
TEACCHは、アメリカのノースカロライナ州で実施されている、自閉症の子どもや家族に対して行う療育プログラムです。自閉症の発達過程を矯正するのではなく、それぞれの優れている部分を見つけ発揮していくことを目指します。
例えば、自閉症の子供は聴覚情報よりも視覚情報を整理することが得意であるため、動作や情報をイラストにし視覚的に伝えることで、日常生活をスムーズにします。
自閉症の特性を理解し多面的に支援すること。
【方法】
物事を物理的・視覚的に構造化、生活をシステム化する。
【事例】
動作や場所、時間など伝えたい事をイラストにして伝える。
認知行動療法
認知行動療法は、ものの見方や受け取り方に働きかけ、気持ちや行動をコントロールするための精神療法です。人はストレスを受けるとネガティブな気持ちになり問題解決が難しくなります。
特に、自閉症の子どもは不安障害を併発しているケースも少なくありません。行動の根本にある思考部分にアプローチし、子ども自身がストレスに対応できるように支援します。
自動思考(思い込みやネガティブ思考)に焦点をあて認知の偏りを修正する。
【方法】
その人の問題点と長所を洗い出し毎日の活動に優先順位をつける。
【事例】
日常的な決まった活動、優先度の高い活動、やりがいのある活動に分け、やりがいのある活動を増やし自信を取り戻す。
SST(Social Skills Training)
SSTは、日常生活において他者と関わる能力を高めるためのトレーニングで、「社会生活スキルトレーニング」や「生活技能訓練」などとも呼ばれます。
自閉症やADHD、学習障害などを持つ子どもは、人とのコミュニケーションがストレスになったりトラブルを起こしたりすることも少なくありません。
SSTでは、子どもの年齢や性別、特性に合わせたトレーニングを行い、周囲の人の視線や表情を読み取り、その場にふさわしい言動や感情の表現方法などのスキルを獲得することを目指します。
日常生活に必要なコミュニケーション能力や自己管理能力を高める。
【方法】
ディスカッション、ロールプレイ、共同行動などをなるべく現実に近い形で行う。 【事例】
時間を決めて題目に対し言葉のキャッチボールをしながらディスカッションをする。
箱庭療法
箱庭療法とは、砂が敷かれた箱の中に、人や乗り物、建物などのおもちゃを置き、ひとつの箱庭を作る心理療法です。
子どもが自由に表現したり遊んだりすることで、心理状態の理解・支援に繋げていきます。子どもは自分を上手く表現できないため、遊びの中で非言語的な自己表現をすることで、心を浄化することができると考えられています。
潜在的な自身の心の内と対話・対決し、自己理解と人格的変容を促す。
【方法】
臨床心理士が見守る中、箱の中にミニチュアを用いて自由に空間を表現する。
【事例】
砂やミニチュアを活用しアイディアを拡げ言葉にならないイメージを表現する。
療育の効果
療育には、以下のような効果が期待されます。
- 日常生活に必要な能力が身に付く
- 個性を大切にしながら苦手を克服できる
- コミュニケーション能力が身に付く
- 自己肯定感が高まる
障害や症状自体を治療することは難しくても、上記のような効果を得ることで、いじめや不登校、抑うつといった二次的な問題を防ぐことができます。
また、他者との関わりをスムーズにし社会参加することで、将来的な自立を目指すことも可能です。すなわち、療育は子どもの個性を大切にしながらも、より生きやすくするための能力を養う支援をすることと言えるでしょう。
子どもが早期から療育を受ける理由
児童発達支援では0~6歳の未就学児が、放課後等デイサービスでは小学生~高校生までの児童・生徒が通っています。障害を持つ子どもや発達障害の疑いがある子どもについては、出来るだけ早い段階から適切なリハビリ、指導訓練などの療育を行うことによって、基本的な生活能力の向上を図り、自立と社会参加を促進できるとされています。
そのため、保健所や市区町村では障害を持つ子どもや発達障害の疑いがある子どもをいち早く発見し、療育へと結びつけるため、3ヶ月、1歳半、3歳になるタイミングで検診が行われています。
得意なことを伸ばし、集団生活に馴染むための術に早くから触れることで、子どもの生きづらさが軽減され、保護者が困りごとに対処する方法を習得することが出来るのです。
参考:内閣府「Ⅱ.-2.障害児に対する早期療育及び教育」
療育を受けられる場所
療育を行う施設を「療育センター」と呼び、児童福祉法では「通所型」と「入所型」に分けられています。
また、通所型と入所型の中でも、福祉サービスのみを行う「福祉型」と福祉サービスと医師による治療を行う「医療型」に分けられます。
- 福祉型:児童発達支援(未就学児)、放課後等デイサービス(就学児童)、保育所等訪問支援
- 医療型:医療型児童発達支援
- 福祉型:福祉型障害児入所施設
- 医療型:医療型障害児入所施設
通所型では、施設へ通所しながら、日常生活の基本的な動作や知識の指導、集団生活への適応訓練などのサービスを受けられます。
肢体不自由がある場合は、医療型施設で発達支援に加えて理学療法などの機能訓練も行います。入所型は、障害のある子どもが施設に入所し、日常生活の指導や技能訓練、疾病の治療看護などを受けられます。
一口に療育施設と言っても、場所によって対象児の条件や受けられる支援、利用方法などは異なります。そのため、子どもの年齢や特性に合った支援をしてくれる場所を見つけることが大切と言えるでしょう。
利用者が療育を受けるまでの流れ
児童発達支援や放課後等デイサービスを利用される子どもやその保護者は、どの様な手続きを経てそこまで辿り着くのでしょうか。順を追って利用までの流れを見てみましょう。
発達障害かどうか診断してもらう
保健所や市区町村が実施する検診で、発育状況をみてもらうことが出来ます。知的障害や発達障害の疑いがある場合は療育相談のため再度検診を実施し、改めて療育の必要性が感じられる場合は専門の病院を受診します。
幼稚園や保育園に通っている場合は、保育士と相談して専門の病院を受診する流れとなります。
療育施設を選ぶ
専門病院の受診後、実際に利用する療育施設を検討します。市町村が運営する児童発達支援センターもあれば、民間企業が運営する児童発達支援事業所、児童生徒が利用する放課後等デイサービス、また入所施設なども存在します。各事業所ごとに特色がありますので、保護者の方はじっくり考えることになります。
受給者証を申請する
いわゆる「手帳」を持っていない子どもも、「受給者証」を持っていれば療育を受けることが可能です。詳細な流れはここでは説明しませんが、居住する自治体に申請を行い、いくつかの調査を経て受給者証が発行されることとなります。
施設利用を開始する
ここまでの流れをご覧になって分かる通り、知的障害や発達障害の疑いがあるのでは、と感じてから実際に療育を受けるまでには、時間がかかっています。そして子ども本人はもちろん、保護者の方は選択した事業所が子どもに合っているのか、きちんと通うことが出来るか、どんな療育が行われるのかと不安に感じています。
こういった手順を踏んで通っている、ということを理解した上で療育にあたることも、職員としては大事なのかもしれません。
療育が必要な子どもとの接し方
療育の種類が分かっても、実際にどのような声掛けや接し方をするのが望ましいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
否定的な表現を使わない
こうした方がいいのにな・・・と思うことがあっても、否定的な表現で誘導してしまうと、子どもは自信をなくしてしまいます。場合によっては何をするにも自分の行動が正しいかどうか、しても良い行動なのかを人に尋ねてから行うようになってしまうかもしれません。
例えば、お絵かきの時間に子どもが空の色をピンク色で塗っているとします。この時、「お空の色はピンクじゃなくて青だよ」と指摘するのではなく、「素敵なお空の色だね」と声を掛けてあげることで、子どもは伸び伸びとお絵かきを続けることが出来ます。
叱らずに気持ちを理解してあげる
子どもがフォークやスプーンを全て投げてしまったり、ご飯を食べずに遊びたがっているとします。こんな時、ついつい叱りたくなってしまいますよね。ですが、どうしてご飯の時間に遊びたいのかを考えてあげることが重要です。
お腹が空いていないのかな、遊ぶ時間が足りなかったのかな、と考えて気持ちに寄り添った上で、その子が一番納得する方法を見つけて接します。遊び、ご飯、準備、外出などのイラストをつくって、行動を促すのも良いかもしれませんね。
まとめ
療育とは、心身に障害を持つ子どもに対して、社会で生きやすくするための治療や教育をすることです。療育を行うことによって、日常生活に必要なスキルが身に付く、社会性が養われるといった効果が期待されます。
昨今では、保育園や幼稚園などでも療育の知識が求められる場合があります。そのため、子どもに関わる仕事に興味のある人は、この記事を参考に療育方法や施設の種類などの理解を深めておきましょう。
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