介護職の給与欄によく見る「処遇改善」とは?詳しく解説!(2023年1月時点最新版)

介護職の求人を見ると、給与欄に「処遇改善」という文字をよく目にしますね。異業種からの転職の場合、見慣れない言葉ではないでしょうか。今回はこの処遇改善について詳しく解説します。

処遇改善の全体像

処遇改善とは、国が実施する介護職員等の賃金を上げる目的で行う施策のことで、3階建ての構造となっています。

出典:厚生労働省「介護職員処遇改善加算・介護職員等処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の概要」

1階は、介護職員等処遇改善加算でⅠ~Ⅲの3区分
2階は、介護職員等ベースアップ等支援加算
3階は、介護職員等特定処遇改善加算のⅠもしくはⅡ です。

これらの加算は、算定要件を満たした介護施設や事業所に対して報酬という形で支払われます。職員に対して直接支払われるものではなく、所属している介護施設や事業所を通じて賃金改善が行われます。

また、介護の仕事に就いているからといって、無条件に受け取ることはできません。勤務先が、介護職員処遇改善加算を受け取るための要件を満たし、手続き(届出)を行う必要があるのです。

この記事を読んで、それぞれの加算についてしっかり理解しておきましょう。

介護職員処遇改善加算

介護職員処遇改善加算は、介護職員として働く人々がより働きやすい環境を作ることや、賃金を上げることを目的に、これまでの「介護職員処遇改善交付金」を引き継ぐ形で2012年に導入されました。

その内容を端的に言うと、要件を満たした介護施設や事業所に対し、報酬という形で介護職員の給与を上げるためのお金を支給する、という制度です。

この制度ができた背景には、介護職員の定着や人材確保が大きく関係しています。「キツいのに給料が低い仕事」というマイナスイメージが根深い介護の仕事。介護職員処遇改善加算の創設によって、給与面での改善はもちろんですが、専門性を磨くことや管理職などの責任ある仕事が目指せる道のりも整備されました。

こうして、もっとたくさんの人が介護の仕事に前向きなイメージや興味を持ち、やりがいのある仕事、モチベーションを保ち長く続けられる仕事として促進していくことが大きな目的となっています。

介護職員処遇改善加算の算定要件には、職場環境等要件とキャリアパス要件と2種類があり、それぞれの要件をどの程度満たしているかによって、申請できる加算の区分が変わってきます。それぞれの要件についてもう少し詳しく見ていきましょう。

職場環境等要件

職場環境等要件とは、「賃金改善以外の処遇改善(職場環境等の改善など)の取組を実施すること」とされています。

具体的には、以下の表のような研修の実施などキャリアアップに向けた取組みやICTの活用など生産性向上の取組み等の実施が求められます。

区分 具体的内容
入職促進に向けた取組み
  • 法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化
  • 事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築
  • 他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築
  • 職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組みの実施
資質向上やキャリアアップに向けた支援
  • 働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対する喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等
  • 研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動
  • エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入
  • 上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ等に関する定期的な相談の機会の確保
両立支援・多様な働き方の推進
  • 子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備
  • 職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備
  • 有給休暇が取得しやすい環境の整備
  • 業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実
腰痛を含む心身の健康管理
  • 介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策の実施
  • 短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施
  • 雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施
  • 事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備
生産性向上のための業務改善の取組み
  • タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減
  • 高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提供)等による役割分担の明確化
  • 5S活動(業務管理手法の1つで、生理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字)等の実践による職場環境の整備
  • 業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減
やりがい・働きがいの醸成
  • ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気付きを踏まえた勤務環境やケア内容の改善
  • 地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の自動・生徒や住民との交流の実施
  • 利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供
  • ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供

キャリアパス要件

2つ目の加算要件は、キャリアパス要件です。

1 職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること
2 資質向上のための計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること
3 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること

介護職員処遇改善加算のⅠ~Ⅲの区分は、職場環境等要件の表から1つ以上の取組みを行っている必要があり、且つ上記のキャリアパス要件の何を満たしているかによって決まります。

加算区分 算定要件
加算Ⅰ 職場環境等要件のうち1つ以上を満たしたうえでキャリアパス要件の1~3全てを満たす
加算Ⅱ 職場環境等要件のうち1つ以上を満たしたうえでキャリアパス要件の1と2を満たす
加算Ⅲ 職場環境等要件のうち1つ以上を満たしたうえでキャリアパス要件の1または2を満たす

月額加算相当額

介護職員処遇改善加算の区分によって、交付される月額加算相当額が異なります。

区分 月額加算相当額(人)
介護職員処遇改善加算Ⅰ 37,000円相当
介護職員処遇改善加算Ⅱ 27,000円相当
介護職員処遇改善加算Ⅲ 15,000円相当

この月額加算相当額は、事業所の総報酬にサービスごとの介護職員数を踏まえて設定された加算率(※後述)を乗じた額となっています。

対象職員と支給方法、支給額

介護職員処遇改善加算は正規雇用、非正規雇用に関わらず介護職員にのみ支給されます。支給方法は各法人や事業所に一任されており、職場によって異なります。例えば、毎月のお給料にプラスする職場もあれば、ボーナス時にまとまった額をプラスする職場もあるといった形です。

支給額については、勘違いされるケースも多いため注意が必要です。先ほど紹介した月額加算相当額はあくまでも法人や事業所が受け取る額で、実際に介護職員が受け取ることが出来る金額ではありません。支給方法同様、法人や事業所が職員の能力やポジション、経験年数などによって差をつける場合があるため、月額加算相当額と実際に受け取ることができる額が必ずしも一致するわけではありません。

介護職員等ベースアップ等支援加算

介護職員等ベースアップ等支援加算とは、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」として、介護職員1人あたりの収入を3%(月額9,000円)程度引き上げる目的で2022年2月より始まった「介護職員処遇改善支援補助金」を今後も継続的に実施するために、2022年10月より名称が変更となり導入された加算です。

加算要件

介護職員等ベースアップ等支援加算を算定するには、以下の要件を全て満たす必要があります。

  • 介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得していること
  • 賃上げ効果の継続に資するよう、加算額の2/3は介護職員等の基本給または決まって支払われる手当の引上げに使用すること

月額加算相当額

介護職員等ベースアップ等支援加算の月額加算相当額は、サービスごとに加算率(※後述)が設定されているため、介護報酬にこの加算率を乗じて算出されます。

対象職員と支給額

介護職員等ベースアップ等支援加算の対象職員は、基本的に介護職員のみですが、事業所の判断によりその他の職員の処遇改善に充当することも可能です。

算定要件にもあるように、基本給または毎月必ず支給される手当の額が引き上げられることにより、常勤換算の介護職員1人当たり月額平均9千円程度が支給されます。

介護職員等特定処遇改善加算

介護職員等特定処遇改善加算は、介護職員処遇改善加算に加える形として、2019年に新たに運用開始となった加算です。

これは、経験や技能のある介護職員について、他産業と遜色ない賃金水準を目指して重点的に処遇を改善するために設けられた制度で、介護職員処遇改善加算や介護職員等ベースアップ等支援加算に上乗せして加算されるものとなっています。

加算要件

介護職員等特定処遇改善加算を算定するには、以下の要件を全て満たす必要があります。

  • 介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得していること
  • 介護職員処遇改善加算の職場環境要件に関し、区分ごとにそれぞれ1つ以上の取組みを行っていること
  • 介護職員処遇改善加算に基づく取組みについて、ホームページ掲載当を通じた見える化を行っていること

上記3つの要件を全て満たす場合は介護職員等特定処遇改善加算の区分「Ⅱ」、これに加えて介護福祉士の配置等要件(以下詳細)も満たすことで、区分「Ⅰ」を算定することができるようになります。

介護福祉士の配置等要件とは
サービス提供体制加算等のⅠまたはⅡを算定していること
訪問介護の場合は「特定事業所加算」のⅠまたはⅡを算定していること
特定施設入居者生活介護等の場合は「サービス提供体制強化加算」のⅠまたはⅡ、または「入居継続支援加算」のⅠまたはⅡを算定していること
地域密着型通所介護(療養通所介護費を算定する場合)は「サービス提供体制強化加算」のⅢ-イまたはⅢ-ロを算定していること
介護老人福祉施設等の場合は「サービス提供体制強化加算」のⅠまたはⅡ、または「日常生活生活継続支援加算」を算定していること

月額加算相当額

支給される加算は、介護職員処遇改善加算分を除く各事業所の介護報酬×各サービスの特定加算ⅠもしくはⅡの加算率(※後述)となります。

対象職員と支給額

介護職員等特定処遇改善加算の職員への支給方法には、いくつかのルールがあります。具体的に見ていきましょう。

対象職員

介護職員等特定処遇改善加算は、名称に「等」が入っていることからも分かるように、介護職員に限定して配分する必要はありません。職員を次のようにグループ分けし、配分対象となる職員を法人または事業所が決定します。

グル―プ 対象職員
A 経験・技能のある介護福祉士(勤続10年以上が好ましいがそれ以下でも法人や事業所が認めた場合は可)
B その他の介護職員
C その他の職員
支給ケース 対象職員の範囲
Aのみ
AとBのみ
A、B、C全体

支給額(賃上げの額)

賃上げの額についてのルールについては以下の通りです。

  1. グループA(経験・技能のある介護福祉士)の内1人以上は月額8万円以上の賃金増もしくは年収440万円以上になるようにする必要がある
  2. グループB(その他の介護職員)よりもグループAの平均賃金改善額が高いこと
  3. グループC(その他の職員)と比較してグループBの平均賃金改善額が2倍以上であること(ただし、グループCよりもグループBの平均賃金額そのものが高い場合はこの限りではない)
  4. グループCの賃金改善後の年収が440万円を上回らないこと(賃金改善を行う前の年収が既に440万円を上回る職員については介護職員等特定処遇改善加算の対象外とする)

サービスごとの加算率

介護職員処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算、介護職員等特定処遇改善加算の月額加算相当額の説明の中で、「加算率」という言葉が出てきましたが、この加算率は勤務先のサービスによって異なります。

以下の表で確認していきましょう。

介護職員処遇改善加算の加算率

サービス 加算Ⅰ 加算Ⅱ 加算Ⅲ
訪問介護 13.7% 10.0% 5.5%
夜間対応型訪問介護 13.7% 10.0% 5.5%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 13.7% 10.0% 5.5%
(介護予防)訪問入浴介護 5.8% 4.2% 2.3%
通所介護 5.9% 4.3% 2.3%
地域密着型通所介護 5.9% 4.3% 2.3%
(介護予防)通所リハビリテーション 4.7% 3.4% 1.9%
(介護予防)特定施設入居者生活介護 8.2% 6.0% 3.3%
地域密着型特定施設入居者生活介護 8.2% 6.0% 3.3%
(介護予防)認知症対応型通所介護 10.4% 7.6% 4.2%
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 10.2% 7.4% 4.1%
看護小規模多機能型居宅介護 10.2% 7.4% 4.1%
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 11.1% 8.1% 4.5%
介護福祉施設サービス 8.3% 6.0% 3.3%
地域密着型介護老人福祉施設 8.3% 6.0% 3.3%
(介護予防)短期入所生活介護 8.3% 6.0% 3.3%
介護保健施設サービス 3.9% 2.9% 1.6%
(介護予防)短期入所療養介護(老健) 3.9% 2.9% 1.6%
介護療養施設サービス 2.6% 1.9% 1.0%
(介護予防)短期入所療養介護(病院等(老健以外)) 2.6% 1.9% 1.0%
介護医療院サービス 2.6% 1.9% 1.0%
(介護予防)短期入所療養介護(医療院) 2.6% 1.9% 1.0%
加算算定非対称 (介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援

介護職員等ベースアップ等支援加算の加算率

サービス 加算率
訪問介護 2.4%
夜間対応型訪問介護 2.4%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 2.4%
(介護予防)訪問入浴介護 1.1%
通所介護 1.1%
地域密着型通所介護 1.1%
(介護予防)通所リハビリテーション 1.0%
(介護予防)特定施設入居者生活介護 1.5%
地域密着型特定施設入居者生活介護 1.5%
(介護予防)認知症対応型通所介護 2.3%
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 1.7%
看護小規模多機能型居宅介護 1.7%
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 2.3%
介護福祉施設サービス 1.6%
地域密着型介護老人福祉施設 1.6%
(介護予防)短期入所生活介護 1.6%
介護保健施設サービス 0.8%
(介護予防)短期入所療養介護(老健) 0.8%
介護療養施設サービス 0.5%
(介護予防)短期入所療養介護(病院等(老健以外)) 0.5%
介護医療院サービス 0.5%
(介護予防)短期入所療養介護(医療院) 0.5%
加算算定非対称 (介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援

介護職員等特定処遇改善加算の加算率

サービス 加算Ⅰ 加算Ⅱ
訪問介護 6.3% 4.2%
夜間対応型訪問介護 6.3% 4.2%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 6.3% 4.2%
(介護予防)訪問入浴介護 2.1% 1.5%
通所介護 1.2% 1.0%
地域密着型通所介護 1.2% 1.0%
(介護予防)通所リハビリテーション 2.0% 1.7%
(介護予防)特定施設入居者生活介護 1.8% 1.2%
地域密着型特定施設入居者生活介護 1.8% 1.2%
(介護予防)認知症対応型通所介護 3.1% 2.4%
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 1.5% 1.2%
看護小規模多機能型居宅介護 1.5% 1.2%
(介護予防)認知症対応型共同生活介護  3.1% 2.3%
介護福祉施設サービス 2.7% 2.3%
地域密着型介護老人福祉施設 2.7% 2.3%
(介護予防)短期入所生活介護 2.7% 2.3%
介護保健施設サービス 2.1% 1.7%
(介護予防)短期入所療養介護(老健) 2.1% 1.7%
介護療養施設サービス 1.5% 1.1%
(介護予防)短期入所療養介護(病院等(老健以外)) 1.5% 1.1%
介護医療院サービス 1.5% 1.1%
(介護予防)短期入所療養介護(医療院) 1.5% 1.1%
加算算定非対称 (介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援

まとめ

介護職員の処遇は、これまで時間をかけて国の施策として取り組まれてきました。特に、ベテランの介護職員への処遇改善が織り込まれた介護職員特定処遇改善加算の創設は、長期的に介護の仕事に携わるモチベーションの向上につながり、経験や技術が分かりやすく評価として表れる点では多くの方の励みになっていることでしょう。

これからも介護人材の需要は高いと予想されます。興味のある方は、ぜひ求人に目を通してみてくださいね。

参考文献