人は年をとると徐々に体の力が弱くなり、外出する機会が減り、病気にならないまでも手助けや介護が必要となっていきます。このように心と体の動きが弱くなってきた状態を「フレイル」と呼びます。ここでは、フレイルの意味や予防方法について詳しく解説します。
記事でわかること
フレイルとは?
フレイルとは、健康な状態から要介護の状態へと移行する中間段階を示す言葉です。疾病やケガなどにより突然要介護状態になることもありますが、高齢者の場合はフレイルの時期を経て徐々に要介護状態になっていくことも多いです。
フレイルとなった高齢者を早期発見し適切な介入をすることにより、生活機能の維持・向上を図ることができると考えられています。
フレイルの言葉の意味
フレイルとは、加齢に伴う機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)が増加した状態のことです。語源は英語の「Frailty(フレイルティ)」であり、日本語に訳すと虚弱や老衰、脆弱を意味します。高齢化により生命・機能予後の推測や包括的医療が重要視されるようになったことから、平成26年2月に日本老年医学会が提唱しました。
(参考:一般社団法人日本老年医学会「超高齢社会におけるフレイルの意義」)
フレイルの基準とは
フレイルにはさまざまな基準がありますが、日本ではFriedらが提唱したCHS基準が用いられることが多いです。この基準では以下5項目のうち3つ以上該当した場合はフレイル、1~2つ該当した場合はプレフレイルと判断されます。
- 体重減少:6ヶ月間で2kg以上の体重減少がある
- 筋力の低下:握力低下(:男性<26kg、女<18kg)
- 疲労感:(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
- 歩行速度の低下:通常歩行速度が1.0m/秒未満
- 身体活動の低下:軽い運動や体操、定期的な運動をしていない
また、フレイルには身体的な変化だけでなく気力の低下や認知の虚弱といった精神的な変化、閉じこもりや孤食などの社会的な変化も含まれます。
フレイルの3つの要素
- 身体の虚弱ーフィジカル・フレイル
- こころ/認知の虚弱ーメンタル/コグニティブ・フレイル
- 社会性の虚弱ーソーシャル・フレイル
フレイルを予防するために
フレイルは加齢による心身の老いですが、早く介入して対策を行えば健康な状態に戻る可能性があります。適切なフレイル予防をすることにより、さらなる身体能力の低下や死亡率の上昇を防ぎ健康寿命を延ばすことにつながるでしょう。
フレイル予防の基本は「食事」「運動」「社会参加」「口腔機能の維持」の4つです。ここではそれぞれの予防法について詳しく解説します。
食事
高齢になり食が細くなると満腹感があっても栄養が十分に摂れなくなります。特に一人暮らしの場合は、食事の品数が減ったり食材が偏ったりすることが多いでしょう。
東京都福祉保健局の調査によると、BMIやアルブミンの指標において、数値が低い郡の方が高い郡と比べて死亡リスクが1.6~1.65倍も高いことが明らかになっています。また、主食、主菜、副菜を揃えて多様な食品を食べることで体力(握力や歩行速度)が高く、筋肉量や体力低下を予防できる可能性も示されています。
そのため、中年期では太りすぎに注意することが重要ですが、フレイル予防では痩せすぎや栄養不足を見落とさないようにしましょう。高齢期は特にタンパク質やカルシウムなどの栄養素が不足しがちなため、肉・魚・卵・牛乳などの食品を積極的に摂ることが大切です。
(参考:東京都福祉保健局 東京都介護予防・フレイル予防ポータル「予防のポイントその1 食べる(栄養)」)
運動
加齢による体力の低下は適度な運動によって回復できます。回復のためには、普段よりやや強度を上げた活動(刺激)が必要です。たとえば、通常10分かかる道のりを9分30秒で行けるようにする、少しだけ歩幅を広く歩くなど小さな工夫の積み重ねも良い刺激となるでしょう。体が慣れてきたらさらに強度を上げることもポイントです。
体力(筋力)の低下を防ぐことで、転倒や骨折で寝たきりになるリスクを軽減できます。また、適度な運動は食欲や心の健康にも影響します。
(参考:東京都福祉保健局 東京都介護予防・フレイル予防ポータル「予防のポイントその2 動く(体力)」)
社会参加
高齢になると、社会的地位や家庭内での役割が変化したり家族や友人を失ったりすることで社会参加への気力が失われてしまうことがあります。社会参加の機会が減少すると、家に閉じこもりがちになり身体的フレイルに移行しやすくなります。
一方で、趣味やボランティアなどに参加すると健康づくりやフレイル予防の効果が促進されると言われています。また、同世代だけでなく多世代とのつながりを持つことも認知機能低下や抑うつに効果的とされています。
そのため、フレイル予防には趣味のクラブに入会したり地域のボランティアに参加したりと社会参加をすることが大切です。ただし、社会参加は自主性が重要であり頻度や時間が多すぎると逆効果という研究もあるため、頑張り過ぎにも注意しましょう。
(参考:東京都福祉保健局 東京都介護予防・フレイル予防ポータル「予防のポイントその3 つながる(社会参加)」)
口腔機能の維持
加齢とともに歯が抜けたり嚥下機能が弱くなったりすると、硬い食材が食べられなくなったりうまく飲み込めなくなったりします。そうなると、食べることが楽しくなくなり低栄養からフレイルになりやすいです。
口腔機能が低下している人は、要介護認定や総死亡のリスクが高いことが明らかになりました。また、さきいかやたくあんくらいの固さのものが噛める人は、そうでない人に比べてすべての年齢郡で健康余命が長いことも分かっています。
さらに、口には食べ物を噛む以外にも、味や温度を感じたり音や表情を作り出したりと社会性に関わる機能もあります。これらのことから、口腔機能を維持することは健康寿命との関連性が高いと言えます。そのため、入れ歯などのケアをしたり嚥下機能を保つ維持をしたりして口腔機能を維持するとフレイル予防になると考えられています。
(参考:東京都福祉保健局 東京都介護予防・フレイル予防ポータル「予防のポイントその4 お口の健康(口腔)」)
まとめ
フレイルとは健康と要介護状態の間を示す言葉であり、適切な介入をすることで回復したり進行を遅らせたりすることができると考えられています。特に超高齢化社会と言われる昨今では、早めのフレイル予防をして自分らしい人生を送ることが課題となってくるでしょう。身近に高齢者がいる方や介護職に従事する方は、ぜひここで紹介したフレイル予防について理解を深めておいてくださいね。
参考
健康長寿ネット フレイルの予防公益財団法人長寿科学振興財団
参考
フレイル予防公益社団法人東京都医師会
参考
高齢者のフレイル予防事業厚生労働省
参考
フレイルの意義 荒井秀典氏日本老年医学会雑誌 51巻6号
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