ASD(自閉スペクトラム症)とは?特性や原因、配慮の仕方を解説

「発達障害」という言葉を知っている人も多いと思います。発達障害と一括りにされていますが、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)ADHD(注意欠如・多動症)学習障害チック症吃音などに分けられ、それぞれ特性の現れ方に違いがあります。今回は、発達障害のひとつであるASDについて特性や治療方法、配慮の仕方を紹介します。

ASDとは

ASD(Autism Spectrum:自閉スペクトラム症)とは、対人関係やコミュニケーション、特定のものへのこだわりといった特性が見られる発達障害の一種です。生まれもった特性であるため子育てによるものではありません。

以前は自閉症やアスペルガー症候群などいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年のアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5の発表以降は、ASD(自閉スペクトラム症)とまとめて表現するようになりました。

ASDには知的障害を伴うケースと伴わないケースがあります。知的障害を伴う場合、幼児期から目を合わせない、指差しをしない、言葉の発達が遅いといった特性が現れます。知的障害を伴わない場合は幼児期に言葉の発達の遅れがないため、障害があることが分かりにくいですが、成長とともに不器用さがはっきりしてきます。

ASDの特性を持つ人は、苦手なことが多いため日常生活や学業・仕事において困りごとを抱えたり周囲から誤解されたりすることも多いです。一方で、興味のあることには一生懸命取り組めるため特定の分野で才能を発揮することもあります。

参考:厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト『発達障害』
参考:国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター『各障害の定義』
参考:厚生労働省 政策レポート『発達障害の理解のために』
参考:政府広報オンライン『発達障害って、なんだろう?』

ASDの特性

ASDの特性の現れ方は人によってさまざまですが、主にコミュニケーションの障害や対人関係の障害、特定のものへのこだわりといった特性を持ちます。知的障害を伴う場合は、幼少期から目を合わせない、後追いをしない、他の子どもに興味を示さない、言葉の発達が遅いといった様子が見られます。保育所や幼稚園に入り、集団行動をとれない、友達と交流しない、偏食が強いなどで気付くこともあります。

学童期になると、先生からクラス全体への指示に従えない、班活動に参加できないといった困りごとを抱えることも多くなります。知的障害を伴わない場合は、明らかな言葉・認知発達の遅れがないため、この時期になって初めて気付くことも少なくありません。青年になってからも、就職後に仕事を臨機応変にこなせない、対人関係がうまくいかないといった悩みを抱えることが多いです。一方で、興味のあることには何時間でも熱中し、芸術などの分野で才能を発揮することもあります。

ASDの特性

  • 急な予定変更が苦手
  • 初めての環境が苦手
  • 集団行動が苦手
  • 偏食が強い
  • かんしゃくを起こしやすい
  • 相手の表情や態度から心情を読み取るのが苦手
  • 自分の興味のあることばかりを話す
  • 音や光はどの感覚刺激に敏感

なお、ASDはADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)といった発達障害、精神疾患、てんかん、睡眠障害などを合併しやすいことも知られています。

参考:厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス総合サイト『発達障害』
参考:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部『知的・発達障害の概要』
参考:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット『ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について』
参考:厚生労働省 精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座『発達障害の特性(代表例)』

ASDの発生頻度と原因

ASDは約100人に1人いると報告されています。男性の方が発生頻度は高く、女性の4倍といわれています。女性の場合は知的障害を伴うことが多いですが、知的障害を伴わない女性は社会的困難の現れが目立たないため、過少評価されている可能性もあります。

ASDの原因はまだ特定されていません。しかし、遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳の機能障害であると考えられています。胎内環境や周産期のトラブルなどが関係している可能性もありますが、親の育て方によるものではありません。

参考:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット『ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について』

ASDの治療方

ASDは生まれもった脳の働き方によるものであり、現代の医学では根本的な治療はできません。しかし、かんしゃくや多動、睡眠障害といった個別の症状は薬で軽減することが可能です。また、個々の発達ペースに合った療育・教育的な対応をすることで、生活を安定させることもできます。

子どもの場合は地域の児童発達支援放課後等デイサービスなどの施設を利用し、専門家と親が協力し成長を見守ります。成人の場合は対人技能訓練やデイケアなどのリハビリテーションを行っている施設を利用できます。ASDの治療においては、周囲の人や専門家が連携し環境整備をすることも大切だと言えます。

参考:厚生労働省『障害児支援施策』
参考:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット『ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について』

配慮の仕方

ASDの人は対人関係や環境適応に困難を持っているため、本人が暮らしやすいように周囲の人が配慮することも大切です。たとえば、ASDの人はあいまいな表現を理解するのが苦手なので、言葉で伝えるときは短い文で具体的な手順を説明するようにします。言葉で見るよりも目で見た方が理解しやすい人も多いので、写真や絵、モデルを使うのも良いでしょう。善悪やルールを教えるときには、注意したり叱ったりするだけではどうすればいいかわからないので、具体的にどうするべきなのかを簡潔に伝えます。

また、ASDの人の中には音や光、肌触りなどの刺激を苦手とする人も多くいます。刺激による不快感を大きくしないよう、安心できる環境を整えることも大切です。パニックを起こす場合もありますが、叱ったり手伝ったりすると逆に興奮させる可能性があります。少しの時間待つことで早く混乱から抜け出せることもあるので、温かく見守ることも大切です。

参考:厚生労働省 政策レポート『発達障害の理解のために』
参考:厚生労働省 精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座『発達障害の特性(代表例)』
参考:政府広報オンライン『発達障害って、なんだろう?』

まとめ

ASDとは生まれつきの脳の機能障害によるものであり、対人関係やコミュニケーション、環境適応などにおいて苦手なことや困難を抱える発達障害のひとつです。見た目では障害があることが分からないことも多いため、周囲から誤解されることも多いですが、本人の努力不足や育て方によるものではありません。ASDの人やその家族が暮らしやすい環境を作るために、特性や配慮の仕方などを正しく理解しておきましょう。