介護業界におけるICTとは?介護現場の課題解決に向けたICTの活用

ICTは日常生活や医療などさまざまな分野で活用が進められており、介護業界でも注目を集めています。しかし、聞いたことはあってもよく分からない、具体的にどう役立つのかスタッフに説明できないという人も多いでしょう。そこで今回は、介護業界におけるICTの必要性や導入するメリット・デメリット、支援事業について詳しく説明していきます。

ICTとは?

ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、日本語では「情報通信技術」と言います。以前はIT(Information Technology)という言葉が使われることが多かったですが、ITはどちらかというと技術そのものをします。一方でICTは情報通信に関する技術はもちろん、情報の活用や共有、伝達といった広い意味を持ちます。

昨今ではITが普及しどう活用していくかが重視されるようになったため、より広義なICTを使うことが多くなりました。国際的にもITよりICTを使う方が一般的です。

ICTというと難しく感じるかもしれません。しかし実は、私たちの身の回りにもICTはあふれており、銀行ATMやネットショッピング、SNS、交通系ICカードなどはICTの活用事例に該当します。

また昨今では教育や医療、介護現場などの領域でもICT化が進んでいます。たとえば教育現場ではタブレット教材が導入され、オンライン授業だけでなく生徒情報の管理や遠隔操作など多様な使われ方をしています。便利なだけでなく、データの活用や他団体との連携など社会的な意味も大きいので、今後ICTの重要性はますます高まっていくでしょう。

介護業界でICT化が求められる理由

ICTはさまざまな領域で求められていますが、介護業界も例外ではありません。ではなぜ介護業界ではICT化が必要なのでしょうか?ここでは介護業界が抱える課題を2つ解説していきます。

介護の担い手が不足している

超高齢社会となった日本では、介護を必要とする人が増える一方で生産年齢人口が減少しており介護の担い手不足が問題となっています。その証拠に、公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によると介護事業所のうち6割以上が、訪問介護員においては8割以上が介護スタッフの不足感を感じています。

また、厚生労働省によると令和元年度の介護職員の必要数は211万であるのに対し、2025年には約243万人、2040年には約280万人が必要になると推計されています。

出展元:厚生労働省『第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』

そのため、介護業界における人手不足は今後より深刻化していくと考えられます。

このような現状を受け、介護業界では処遇改善や復職支援といった介護人材を確保する取り組みに加え、ICT活用による生産性の向上も図られています。
出展元:厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課 福祉人材確保対策室『福祉・介護人材確保対策について』

社会保障費が増大している

>高齢者が増えることにより、医療費や介護費といった社会保障費が増大しています。

出展元:厚生労働省『平均寿命と健康寿命の推移』
加えて、生産年齢人口の減少により財源の確保も困難化。税金や借金に頼らざるを得ないため、現役世代だけでなく私たちの子どもや孫世代にも負担を先送りしているのが現状です。

また、2022年にはいわゆる「団塊の世代」が後期高齢者である75歳になり始めます。75歳になると1人当たりの社会保障費が急増するため、持続可能な社会保障制度の確立が急がれています。このような課題に対し、ICTを活用することで効率的かつ高水準の医療・介護サービスの運営が実現されると期待が高まっています。
参考:独立行政法人福祉医療機構WAMNET『第1回:介護分野のICT化における日本の動向・世界の動向』

介護業界の今後の目標

介護業界には担い手不足と社会保障費の確保という大きな問題があることを説明しました。では、それらの課題を解決するためには今後何が必要になってくるのでしょうか?

ICT化による業務効率の向上

従来の紙媒体での情報のやりとりを抜本的に見直しICT化を進めることで、業務効率化、そして介護職員の負担軽減につながります。働きやすい環境作りにつながるため離職防止や業界イメージの向上も期待できるでしょう。

また、介護現場でICTを活用すればビッグデータの蓄積や他事業所との連携も可能になるため、エビデンスに基づく介護サービスの提供にもつながります。働く環境の改善およびサービスの質向上といった観点から、課題を解決する目標のひとつとしてICT 化が注目されています。

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健康寿命を延ばす

健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間(引用元:厚生労働省 e-ヘルスネット。高齢者数が増えたとしても医療や介護に依存せず生活できる期間を延ばせば、介護業界の人手不足や社会保障費といった問題は軽減できます。そのため、健康寿命を延ばし高齢者を要介護状態から遠ざけることも重要だと考えられています。

厚生労働省では、健康寿命と男女ともに3年以上延ばし75歳以上にすることを目標に掲げ、健やかな生活習慣形成や疾病予防、フレイル予防などを推進しています。健康寿命を延ばすことで、より少ない⼈⼿でも回る医療・介護現場の実現につながると考えられています。
参考:厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部障害福祉課『2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめについて』
フレイルって何?高齢化社会で注目されるフレイル予防について解説

介護現場で導入が進むICTとは

ここまで介護におけるICT化の重要性について説明してきましたが、ICT化を進めると介護現場では具体的にどのような変化が期待できるのでしょうか?次に、介護現場でのICT導入事例とメリット・デメリットを紹介していきます。

介護現場でのICT導入例

介護現場ではすでにICTの導入が始まっています。代表的な導入例は以下の通りです。

導入システム 得られる効果
タブレットを利用した情報共有システム 紙の文書量を削減。介護業務の合間に記録できるため残業時間を削減。管理者は遠隔で記録を把握できる。
勤怠管理・給与計算システム スマホから出退勤を登録できるのでタイムカードに打刻するためだけに事業所に戻る必要がなくなる。給与計算システムが付いていれば、毎月の労働時間や給与を計算する手間を削減できる。
見守りシステム ベッドに搭載されたセンサーにより利用者の生体情報を管理する。見回りに行かなくても遠隔で管理でき、データを分析することで排泄予知や急変予兆の把握にもつながる。
介護システム 他事業所と同じシステムを使えばケアプランの連携が可能。転記や申し送りの手間を削減できる。

参考:独立行政法人福祉医療機構WAMNET『第4回:日本で進む介護のICT化』
参考:厚生労働省『介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き Ver.2 概要版』

介護現場にICTを導入するメリット

介護現場でのICT導入には以下のようなメリットがあります。

  • 事務作業の効率化
  • スムーズな情報共有
  • 蓄積データ活用によるサービスの質向上
ICTを導入することにより、介護記録や勤怠管理などの事務作業にかかる時間を削減できます。スマホやタブレットに記録を入力できれば、再度入力する手間を省くとともに転記ミスのリスクも減らせるでしょう。病院や系列の事業所など他事業所とのデータ共有もスムーズになります。

また、ICT化はデータ活用によるサービスの質向上にもつながります。紙媒体でやりとりされる情報はその場限りしか利用されないこともありますが、ICT化を進めれば利用者や介護に関する記録を蓄積できます。蓄積したデータを分析できる技術も進歩しているので、最適な介護サービスの提供につながるでしょう。
参考:独立行政法人福祉医療機構WAMNET『第2回:介護分野のICT化のメリット』
参考:厚生労働省『令和元年度 ICT導入支援事業 実績報告まとめ(概要)』

介護現場にICTを導入するデメリット

介護現場にICTを導入するデメリットは以下の3点です。

  • 導入コストが高い
  • 介護職員への教育が必要
  • 職員間や家族とのコミュニケーションが減る可能性
ICT導入には、システムの費用だけでなく必要なPCやタブレットを用意したりインターネット環境を整えたりとコストがかかります。実態に合った機器やシステムを導入しないとコストに見合う効果を得られないので、慎重に判断する必要があるでしょう。

また、高齢の職員やパソコン操作が苦手な人はICT化に抵抗を持ってしまうため、慣れるまでは強いストレスを感じてしまいます。情報共有がスムーズになる分、職員や家族とのコミュニケーションが減ってしまう可能性もあるでしょう。そのため、新しい機器やシステムを導入する際は、業務フローをきちんと確立し丁寧に教育していかなければなりません。
参考:厚生労働省『令和元年度 ICT導入支援事業 実績報告まとめ(概要)』

ICT導入支援事業について

厚生労働省では、ICT化によって介護職員の負担軽減を図るため「ICT導入支援事業」を行っています。この制度を利用することで、 ICT化に必要なソフトやタブレット端末、インカムなどの導入費用について補助を受けられます。補助対象や補助要件、上限額は以下の通りです。

補助対象

介護ソフト 記録、情報共有、請求業務で転記が不要であるもの、ケアプラン連携標準仕様を実装しているもの
情報端末 タブレット端末、スマートフォン端末、インカム等
通信環境機器等 Wi-Fiルーター等
その他 運用経費(クラウド利用料、サポート費、研修費、他事業所からの照会対応経費、バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理等)等

補助要件

  • LIFEによる情報収集・フィードバックに協力
  • 他事業所からの照会に対応
  • 導入計画の作成、導入効果報告(2年間)
  • IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または 「★★二つ星」のいずれかを宣言

補助上限額

事業所規模(職員数)に応じて設定

補助割合
一定の要件を満たす場合は、3/4を下限に都道府県の裁量により設定。それ以外の場合は、1/2を下限に都道府県の裁量により設定
引用:厚生労働省『ICT導入支援事業の概要』
参考:厚生労働省『介護現場におけるICTの利用促進』
参考:厚生労働省『介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き Ver.2 概要版』
なお、ICT導入支援事業は都道府県が主体となって実施されているため、申請方法や詳細は都道府県のホームページ等により最新状況を確認してください。

まとめ

介護業界には人手不足や社会保障費の増大といった課題があり、それらを解決する手段としてICT化が注目されています。介護現場にICTを導入することで働きやすい環境作りやサービスの質向上につながるため、検討している方はぜひ支援制度などを利用し導入を進めてみてください。