新型コロナウイルスの流行や頻発する自然災害の影響を受けて、「令和3年度介護報酬改定」では介護事業所のBCP(業務継続計画)策定が義務化されました。しかし、そもそもBCPとは何なのか、どのように取り組めば良いのか分からないという方も多いでしょう。
そこで今回は、介護事業所におけるBCP(業務継続計画)策定義務化の背景や策定ポイントをご紹介します。
記事でわかること
BCP(業務継続計画)策定の義務化とは
BCP(業務継続計画)策定という言葉や義務化されたことを知っていても、その詳細までは理解できていない人もいるのではないでしょうか?そこでまずは、BCP(業務継続計画)策定義務化の意味や概要を確認しておきましょう。
BCP(業務継続計画)の意味
BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、自然災害や感染症の蔓延、テロ事件などの緊急事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または可能な限り短期間で復旧するための方針や手順を示した計画書のことです。
新型コロナウイルスなどの感染症や自然災害が起こると、通常通りに事業を継続することが困難になります。介護事業所においては日常生活に支援が必要な高齢者が多数いることから、生命や身体に大きな影響を及ぼす可能性も少なくありません。
そこで政府は、感染症や災害が起こった場合でも継続的に介護サービスを提供できる体制を作るために、「令和3年度介護報酬改定」においてBCP(業務継続計画)の策定を義務付けました。
参考:厚生労働省老健局「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和2年12月)
参考:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 BCP(事業継続計画)とは」
参考:独立行政法人福祉医療機構 WAMNET「BCP(業務継続計画)」
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
策定期限や罰則について
BCP(業務継続計画)の策定義務化には、3年間の経過措置期間が設けられています。したがって2024年から義務が発生することになります。
出展元:独立行政法人福祉医療機構 WAMNET「BCP(業務継続計画)」
なお、義務を果たさなかった場合の罰則などについては発表されていません。省令においては法律の委任がない限り罰則を設けたり権利を制限したりすることはできないので、今後罰則が追加される可能性は低いと考えられます。
なぜ今介護事業所にBCP(業務継続計画)策定が必要なのか
BCP(業務継続計画)の概要を理解したところで、なぜ今それが求められているのでしょうか。そこで次に、介護事業所にBCP(業務継続計画)が必要な理由について策定メリットを含めて説明していきます。
利用者や職員、事業を守るため
BCP(業務継続計画)を策定することで、緊急事態が発生したときにとるべき行動が分かるようになります。
介護事業所では、電気やガスなどのライフラインが寸断されると利用者の生命や身体に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。不測の事態が起こっても利用者に必要なサービスを継続的に提供するためには、BCP(業務継続計画)によって体制を構築しておくことが非常に重要です。
また、緊急時の対応は取引先との信用問題にも影響を与えます。そのため、BCP(業務継続計画)を策定しておくことは、介護サービス利用者だけでなく職員や事業を守ることにもつながります。
新型コロナウイルスの影響
BCP(業務継続計画)の策定が義務化された背景としては、新型コロナウイルスの流行も関係しているでしょう。
大きな災害が起こったとき、年月が経つにつれ記憶は薄れていくものです。また、体験者とそうでない人には意識の差も生まれます。しかし新型コロナウイルスにおいては、国内全域に渡って非常に多くの人が影響を受けました。特に高齢者が多くいる介護事業所では、これまでに経験したことのない対応を求められた現場も多いでしょう。
そのため新型コロナウイルスの記憶が新しい今は、生の体験をBCP(業務継続計画)に活かす絶好の機会だと言えます。経験をもとに反省点や対応を整理していけば、今後の貴重な指針になるでしょう。
事故が起きた場合などのリスクを回避するため
介護事業所は、利用者の身体や生命、財産などを侵害することなく安全に介護サービスを提供する義務を負っています(安全配慮義務)。また、そこで働く職員に対しても生命や身体の安全を確保しなければなりません。
そして、もし安全配慮義務を尽くしていない中で事故が発生した場合、介護事業所には損害賠償責任が生じます。法的責任だけでなく道義的・社会的な責任を追及されることもあるでしょう。BCP(業務継続計画)も安全配慮に大きく関わるものであるため、有事の際のリスクを回避するという意味でもその役割は大きいと言えます。
BCP(業務継続計画)策定のポイント
BCP(業務継続計画)の目的は、緊急時でも継続的に介護サービスを提供できる体制を作ることですが、自然災害と感染症では考慮すべき事象や活動の範囲に違いがあります。ここでは、自然災害と感染症に分けて、BCP(業務継続計画)策定のポイントを紹介していきます。
自然災害BCP
自然災害BCPのポイント
- 正確な情報集約と判断ができる体制を構築
- 自然災害対策を「事前の対策」と「被災時の対策」に分けて、同時にその対策を準備
- 業務の優先順位の整理
- 計画を実行できるよう普段からの周知・研修、訓練
防災計画では身体や生命の安全確保と物的被害の軽減が主な目的となりますが、自然災害BCPでは重要業務を優先的に継続する、または早期復旧することも目指します。
災害発生時には深刻な人的被害が生じる可能性があるため、利用者の安全を守るための対策が最も重要です。また、職員の長時間勤務や精神的打撃といった懸念もあるため、職員の過重労働やメンタルヘルスに適切な対応をすることも使用者の責務となります。
そのため、災害発生時でも利用者の生命や健康を守れるよう、平時から体制構築や優先業務の整理などを進めておく必要があります。危険発生時に迅速な対応ができるように関係者に周知・訓練を行っておくことも重要です。
感染症BCP
感染症BCPのポイント
- 施設・事業所内を含めた関係者との情報共有と役割分担、判断ができる体制の構築
- 感染(疑い)者が発生した場合の対応
- 職員確保
- 業務の優先順位の整理
- 計画を実行できるよう普段からの周知・研修、訓練
感染症BCPでは、健康や生命を守る機能を優先しつつ、事業所内で感染者が出た場合でも業務を継続することが主な目的となります。
新型コロナウイルスなどの感染症は、長期化すると考えられる一方で不確実性が高く簡単には予測できません。自然災害のように設備やインフラに甚大な被害が及んだり通常業務が急減したりすることはなく、むしろ感染対策などの業務が一時的に増えます。そのため、感染拡大時の人員確保や感染拡大防止を中心的に考慮することが求められます。
BCP(業務継続計画)策定のガイドライン
ここまでBCPの目的やポイントについて説明してきましたが、具体的にどう進めれば良いか分からない方もいるでしょう。そんなときは、BCP(業務継続計画)策定のガイドラインを参考にしてください。
厚生労働省では、介護サービスの安定供給の重要性から介護事業所におけるBCP(業務継続計画)策定のガイドラインを公開しています。感染症・災害発生時のガイドラインのほか、施設ごとのひな型や研修動画も見られます。
ここまでBCPの目的やポイントについて説明してきましたが、具体的にどう進めれば良いか分からない方もいるでしょう。そんなときは、BCP(業務継続計画)策定のガイドラインを参考にしてください。
また、内閣府は介護事業所に限らずあらゆる業種・規模を対象とした網羅的な事業継続ガイドラインを公開しています。
参考 事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-内閣府BCP(業務継続計画)を作成する際は、これらの資料を参考にしてある程度の形を掴んでおきましょう。
まとめ
「令和3年度介護報酬改定」により、介護事業所にはBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられました。BCP(業務継続計画)は自然災害や感染症などの緊急時でも事業を継続するための指標で、利用者や職員、そして事業を守るために欠かせないものです。義務化までにはまだ少し時間がありますが、内容によっては今すぐにできるものだけではないため、ぜひ早めに取りかかっておきましょう。
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