介護職員はどのようなことが原因でストレスを抱えるのでしょうか。
公益財団法人介護労働安定センターの調べによると、介護職員は、仕事に関する不安・悩み・ストレスに対して 85.8%が「ある」と回答しています(参考1)。
ストレスの原因には、利用者との関係、上司・同僚との関係、従事する業務の量・質などが考えられますが、一体、介護職員はどのようなことでストレスを抱え、どのような方法で解決しているのでしょうか。
この記事では、介護職員が抱えがちなストレスを紹介するとともに、その解決策について解説します。
記事でわかること
利用者対応に関するストレス
介護の業界は人と人が関わる分野である以上、利用者との関わりにストレスを感じるのは仕方が無いことです。
ましてや、利用者は何らかの障害や疾病を抱えた「人」であり、健常者と比べて精神的に落ち込んでいたり、不安定であったりするため、対応が難しいのは当然です。
ここでは、認知症利用者の対応例を用いて、介護職員が抱えがちなストレスを紹介します。
認知症の利用者への対応が難しい
高齢者福祉施設等に入所する利用者のなかには、認知症を患っている人が少なくありません(参考2)。
そのうえ、認知症の症状には個人差がある(参考3)と言われており、介護職員はその対応に難しさを感じることがよくあります。
認知症とは
認知症とは「いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)」(引用1)を指します。
主な症状としては、次のようなものがあります(参考4)。
- 先ほど覚えたものをすっかり忘れてしまう
- 新しいことを覚えて知識を活用することが難しい
- 状況に合わせた素早い判断が苦手となる
具体的な認知症の症例
人物 | 症例 |
Aさん | 何回も同じことを繰り返し尋ねてくる。例「ご飯はまだ?」 |
Bさん | 10年以上も前に退職しているにもかかわらず、早朝に出社の準備をし始める |
このように認知機能の障害によって、日常生活がうまく行えなくなるのです。
では、このような状況のなかで、介護職員はどのような対応を心がければ良いのでしょうか。
解決策
認知症の特徴を理解し、それに合わせた対応を心がけることが重要です(参考5)。先述のAさん、Bさんへの対応例と合わせて紹介します。
対応方法 | 詳細 |
利用者の言動に耳を傾け、その背景を知る | 利用者がなぜそのような言動を取っているのか、その背景を十分に理解して、とにかく耳を傾ける。
例) |
穏やかに声をかけ、適度なスキンシップで安心させる | 「それは大変でしたね」「大丈夫ですよ」と穏やかに声をかけて、落ち着いてもらえるようにする。また、適度なスキンシップ(背中をさする、手を握る等)を行って、混乱が促進しないように注意する。
例) |
本人の自尊心、プライドを傷つけない | できる限り本人を責めずに、利用者の思いを尊重した関わり方を心がける。自尊心やプライドを傷つけるような関わり方は、自分を守ろうとして暴力的になったり、塞ぎ込んでしまったりする恐れがある。
例) |
このように、利用者の言動に目を向けるのではなく、その背景を知ったうえで関わりを持つことが重要です。
そして「不安になりますよね」「心配ですね」といった、温かい言葉と、寄り添う姿勢で対応するようにしましょう。
認知症についてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
上司・同僚との人間関係に関するストレス
介護業界に限った話ではありませんが、同じ職場で働く上司・同僚との人間関係がストレスの原因となることがあります。
特に、介護職員は少人数でチームワークを発揮しながら働くため、チーム内に不和があると、ストレスを感じやすくなり、また、提供する介護に悪い影響が出ます。
ここでは、上司・同僚との人間関係でストレスを感じる事例と、その解決方法を紹介します。
上司が求められる役割を担っていない事例
入所施設で働くCさんは、同じユニットに勤務するリーダーDさんに不満があり、Dさんとの関係にストレスを感じています。
Cさんが勤務する施設では、リーダーDさんの指示の元に、介護職員等がチームとなって利用者の支援を行います。
しかし、Dさんの力量・役割の未遂によってチームの雰囲気・力が左右されてしまい、Cさんは「Dさんのせいでチームが機能していない」と感じています。
具体的には次のような不満です。
- 介護職員の仕事に対する考え方が統一されていない
- 介護の提供方法、支援の方法がバラバラ
- 利用者のケアに関する会議でも、表面的な情報共有に終始する
- 毎月のシフトの組み方に偏りがある 等
しかし、せっかく情報交換や共有の機会があったとしても、その価値をリーダーと職員が認識していないと、カンファレンスを行うこと自体が目的となってしまい、提供する介護の質的な低下につながります。
解決策
Cさんは、同じようなストレスを抱える職員と協力して、リーダーDさんに対し「カンファレンスの意義」について建設的に提案してみました。
決して、これまでのカンファレンスを否定するのではなく「何のためにカンファレンスをやるのかという目的を明確化したいです。一緒に考えてほしいです」と提案したのです。
それが功を奏し、その後のカンファレンスでは、何のために、誰のために、何がゴールなのか等、リーダー含め参加者全員が共通認識を持ったうえで開催できるようにしました。
結果、利用者の情報が充分に共有され、それに基づいたケアの方針が定まり、現場は介護職員による積極的な意見交換が見られるようになりました。
今回の事例では、リーダーの力量が不足していて、ユニット職員のチームワークが十分に発揮されませんでした。
しかし、チームメンバーの提案をきっかけに、カンファレンスの意義が見直され、全体で協力できるような雰囲気づくりにつなげることができました。
カンファレンスで申し合わせた方針・内容でケアを提供できれば、チームの機能性が高まり、より良い介護の提供に繋がります。
やがて、利用者の表情にも良い変化が生まれ、ユニット全体で活気が出ることになるでしょう。
気分屋の同僚との関わりがストレス
入所施設で働くEさんは、同じフロアで働くFさんとの関わりにストレスを感じています。なぜなら、Fさんはその日、その時によって気分の変動が激しく、対応に困るからです。
同じシフトで勤務した際には「機嫌が悪かったらどうしよう」「八つ当たりされるのではないか」など、気を揉んでしまいます。
特にユニットケアの現場では、少人数で介護業務を行っているため、このような同僚と同じシフトになった場合は、空間的に逃れることができず、精神的に苦しい状況となります。
本来ならば、利用者の生活支援を行う役割を担うはずが、同僚の顔色を見たり、気を使ってばかりで、疲れてしまうということが稀にあります。
解決策
まず、信頼できる上司にこの状況を相談してみましょう。今回のようなケースは、1人で抱え込んでいても解決が難しい内容です。他者に話をすることで自分の状況を客観的に捉え、広い視野で解決方法を考えることができるようになります。
相談できる人がいない、相談は適切な方法ではないという場合には、自分にできることは何かを考えましょう。
先程の事例でいえば、EさんはFさんとの関わりで、次のような原理原則を定めると良いでしょう。
項目 | 対応例 |
期待をしない | Fさんの機嫌が良かったらいいな、Fさんと同じシフトにならなければいいな等の期待をしない。 |
不機嫌な時は放っておく | Fさんの感情や言動に関心を払わない。同調せずに、ご機嫌取りもしない。適度な距離を置き、淡々と自分のペースで仕事をする。 |
深く考えない | Fさんの言動、気分の変動の意味(なんで○○なのだろう?)を考えない。考えても意味がないので、別のことに頭と心を使う。 |
とはいえ、現場では、同僚と連携して介護の提供をしなければならない時があります。その時は必要最低限の関わりを持って仕事をするようにしましょう。
その際、こちらまで不機嫌になる必要はありません。社会人としてのマナーを持って、受け答えすれば良いです。
業務内容の量・質に関するストレス
介護に関する業務は、どうしても人の手間がかかります。多くの業務でマンパワーを必要とするため、業務自体へのストレスを感じる場面が多くあります。
ここでは、介護業務の量・質に関するストレス事例を紹介します。
理想とする介護ができない不満
大型入所施設に勤務する介護職員Gさん(30歳、女性)は、勤続5年を迎える中堅職員です。自分の担う役割を理解していながらも、多くの利用者を前にし、業務の量・質について不満があります。具体的なストレスは次のようなものです。
- 私が本当にやりたい介護は、もっと利用者との時間を大切にすること
- 本当は寄り添った支援がしたいのに、時間に追われて十分なお相手ができない
解決策(実践編)
利用者と関わる時間を確保するためには、介護職員がチームとして機能する必要があります。チームとして方針を決めたうえで、連携してお互いを補い合い、まとまった時間を作ることが重要です。
そして、限られた時間をどのように使うのか、職員間で共通認識を持つためにカンファレンスを開催しましょう。そして、次の事項を定めましょう。
項目 | 内容 |
目的 | 利用者のニーズは何か |
どのくらい | どのくらいの時間を確保するのか |
どのように | 限られた時間でどのように関わるのか |
ゴールは | どのようなゴールを目指すのか |
効果はあるのか | どのようにして効果測定を行うか |
時間は作ったものの、いざ当日になって「何をどのようにしたら良いか決まっていない」ということを防ぐため、カンファレンスを通じて協力体制を構築しましょう。
解決策(転職編)
Gさんが「小規模の施設で、理想の介護を提供したい」と考えるようになれば、転職も一つの解決策となります。
例えば、小規模多機能型居宅介護や認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などの小規模施設に転職するという方法です。
これらの施設は入所する利用者の数が少なく、家庭的な雰囲気のなかで介護が提供される特徴があります。9人以下の少人数の利用者に対し、少ないスタッフで温かい介護を提供することを目指す施設です。
勤務する施設が変わったとしても、介護が必要な人を対象に、寄り添った支援を行う仕事であることに変わりありません。きっと、これまで積み上げてきたキャリア・経験を、転職先の施設でも充分に活かせるはずです。
まとめ
この記事では、介護職員が抱えがちなストレスを紹介するとともに、その解決策について解説してきました。
介護現場は人と人が関わる仕事であり、感情が交差する現場であるため、人間関係上のストレスは避けては通れません。
不満・ストレスを感じたら一人で抱え込まずに、信頼できる上司や同僚に相談してみましょう。その際、決して相手を攻めるのではなく、建設的で前向きな提案を実践してみて下さい。
参考文献
- 公益財団法人 介護労働安定センター平成28年度介護労働実態調査(特別調査)について ~介護労働者のストレスに関する調査~
- 厚生労働省平成28年介護サービス施設・事業所調査の概況
- 茨城県ホームページ認知症の理解
- 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2013)「新・介護福祉士養成講座12 認知症の理解 第2版」 中央法規
- 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2013) 同
引用文献
- 厚生労働省 政策レポート「認知症を理解する」
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