介護のコミュニケーションで大切なこととは

介護者に求められる能力は、ただ単に介護技術を駆使し、介護サービスを提供することだけではありません。 要介護者とのコミュニケーションを通して良好な関係を築き、医療・介護の職員と一緒になって、より良い介護の提供に繋げる力が求められています。
このコラムでは、要介護高齢者とのコミュニケーション場面において介護者に求められる注意点や、簡単に実践できるコミュニケーション技術を紹介します。

介護現場でコミュニケーションが必要な理由は?

私たちは主に言葉を用いたコミュニケーションを通して、他者と人間的な関わりを持ちます。しかし、介護を必要とする人たちのなかには、疾病や障害等によってコミュニケーションが困難となり、自分の考えや想いを相手に伝えるのが難しくなっている人がいます。

このような方たちは、自分の意思を伝えることが困難なばかりか、相手の言っていることを理解できなくてストレスや不安を抱えている人が少なくありません。 よって、介護者は彼らの不安やストレスを解消するために、要介護者の疾病や障害の特徴を理解するとともに、その人たちに合わせたコミュニケーション技術を身につけることが求められます。

コミュケーションとは?

コミュニケーションには「意思伝達」という意味があります。しかし、私たち人間は意思伝達だけのためにコミュニケーションを図っているのではありません。
コミュニケーションには、お互いの心を通わせたり、相互理解を深めたりする力があり、私たちはそれを期待してコミュニケーションを図っています。
したがって、介護者はコミュニケーション技術を駆使することで、要介護者の理解を深め、互いの心を通わせながら、よりよい人間関係の構築=よい介護の提供を目指すことが重要です。

介護現場のコミュニケーションで必要なこと

コミュニケーションが困難な要介護者とは、主に高齢者、障がい者等です。彼らのなかには認知症や、言語の障害などを抱えている例があり、コミュニケーションが難しいのです。 彼らの疾病や障害の程度を理解するとともに、その状態に応じてコミュニケーション手段を変える必要があります。

いくつかの例を挙げて、その注意点や技術を紹介します。

認知症の高齢者とのコミュニケーションの基本

認知症には、次のような症状があります。

  • 記憶力の低下(数分前、数時間前の出来事を忘れる)
  • 見当識障害(時間や場所、出来事の前後関係が分からなくなる)
  • 判断能力の低下(状況や説明が理解できなくなる)
  • 言語障害(言葉が出ない、相手の言っていることが理解できなくなる)

上記のような症状が出た場合、自分がなぜここにいるのか、目の前の人が誰なのかが分からない状態になります。 つまり、認知症の方のなかには、対人関係において不安を感じる人がいるといっていいでしょう。

認知症の症状や、進行するスピードは人によって異なります。しかしながら、要介護者が認知症を抱えている以上、介護者がコミュニケーションを図るうえで共通して言えることは「否定をしない」ことが重要です。 たとえ、話に辻褄が合わなかったり、言っていることと行動が異なったりしたとしても、決して否定せず、今の状況・感情に寄り添うことで安心してもらえるようにしましょう。

不安や焦りを訴える人とのコミュニケーションの基本

次のような要介護者に対し、どのように対応すればいいのでしょうか。

帰宅願望 「家族の迎えはまだ?」「いつ帰れるの?」という申し出がある
老年期愁訴(しゅうそ:嘆きの意) 「本当に病気が治るのか」「何のために生きているのか」という感情表出がある
不安そうな感情 「私はここにいていいのでしょうか」という言葉がある

このような場面に遭った時、私たち介護者は誤った対応をしがちです。 彼らの発する言葉だけを捉えてしまい「そのうち来ますよ」「そのうち帰れますよ」「生きていればそのうちいいことがありますよ」といった、その場しのぎの言葉をかけてしまいます。

重要なのは「要介護者の発する言葉だけにとらわれないこと」です。相手の話す内容だけではなく、その言葉の背景にある気持ちや背景にまで目を向けることです。
不安や焦りはどこからくるのか、彼らの心配、生きにくさはどのようなものなのか。このような点を考え、うかがい、理解し、受け止める共感的な対応を心がけましょう。

介護現場で実践できるコミュニケーション技術

これまでのことを踏まえたうえで、介護現場で実践できるコミュニケーションの技術を紹介します。
下記のなかには簡単に実践できるテクニックがありますので、ぜひ介護現場でトライしてみて下さい。

閉ざされた質問、開かれた質問

質問とは、こちらが必要としている情報を相手に尋ね、答えてもらうための手段です。質問の方法には閉ざされた質問と開かれた質問の2つがあります。

特徴
閉ざされた質問 「はい」または「いいえ」、簡単な一言で答えられる質問の方法。開かれた質問への回答が難しい場合に使用する。 「お年はいくつですか」
「元気ですか」
「○○はお好きですか」
開かれた質問 「はい」または「いいえ」では答えられない質問の方法。利用者の言葉を引き出すことが狙い。 「ご家族はどこにお住まいですか」
「どのようなお仕事されているのですか」
「なぜそのように思うのですか」

よくあるパターンとして、コミュニケーションの序盤では、閉ざされた質問から始めます。
その後、徐々に開かれた質問に移り、要介護者の感情・想いなどが表現できるように工夫します。

たとえば、帰宅願望のある要介護者に対するやりとりの例は、次のとおりです。

まずは「閉ざされた質問」で

要介護者:「あの…家に帰らないといけないんです」
介護者:「あら、そうなんですね。家に帰らいないといけないのですか?」
要介護者:「はい、そうです」

続いて「開かれた質問」で

介護者:「どうして家に帰らないといけないのですか?」
要介護者:「あの…もう息子が帰ってくる時間で、夕飯の準備をしないといけない…」
介護者:「息子さんがおられるのですね。お宅はどこにあるのでですか?」
要介護者:「○○に住んでいます。帰りの準備を始めないと…」
介護者:「分かりました。一緒に準備を始めましょうね。ちなみに、息子さんは何のお仕事しておられるのですか?」「自慢の息子さんなのですね」「お嫁さんは・・・」「お孫さんは・・・」
要介護者と一緒に、帰り支度を始めます。息子さんのお仕事やお嫁さんのこと、お孫さんのことまで話が及べば、そのような想いに至るまでの背景、家族に対する想いを語ってくれるかもしれません。やがて、要介護者が落ち着きを取り戻すはずです。

上記のとおり、要介護者の状態に合わせてこれらを使い分けてみて下さい。
コミュニケーションが深まり、そこに至るまでの感情が聴ければ、その場しのぎではなく、彼らに落ち着いてもらえるような対応ができるかもしれません。

繰り返しの技法

要介護者とコミュニケーションを図っている時、当然のことながら、介護者は頷いたり、相づちを打ったりして話を聴きます。

その際、要介護者の言葉を適切に「繰り返す」といいでしょう。この「繰り返しの技法」には、次のような効果が期待できます。

  • 要介護者は自分の言葉を再確認し、相手に伝わっていると感じる
  • 介護者の「あなたの話を聴いていますよ」という意欲が、要介護者に効果的に伝わる
  • 介護者の意見を押し付けずに済む
以下、具体的な例を示します。

要介護者の言葉 左記に対する介護者の回答例
ケースA 「家族の迎えを待っているけど、まだ来ない。どうしたんだろうか」 「まだ来ないですね・・・どうしたんでしょうね」
ケースB 「昨晩は色々と考え事をしていて、よく眠れなかった」 「色々考え事をしていたんですね」or「よく眠れなかったのですね」

注意点として、単純に要介護者の言葉を繰り返せばよいという訳ではありません。
彼らの心・感情に寄り添い、要となるキーワードをリピートするのです。注意点として、単純に要介護者の言葉を繰り返せばよいという訳ではありません。彼らの心・感情に寄り添い、要となるキーワードをリピートするのです。

また、相手の表情を観察して、同じような感情・表情になるよう心がけます。そして、適度なタイミングで「繰り返す」ことで、要介護者が「聴いてくれている」と思ってもらえるようにしましょう。

介護のコミュニケーションは一方的ではない

これを読んで下さっている方のなかに、コミュニケーションとは「話すこと」や「話して解決に導くこと」だと思っている人がいるかもしれません。
もちろん、それもコミュニケーションの一つだといえます。しかし、このようなコミュニケーションは一方的なものになりがちです。はたして、良好なコミュニケーションだといえるかどうかです。
介護現場では「話し上手よりも、聞き上手であれ」と言われるくらい、相手の話に耳を傾けることが大切です。話しやすい雰囲気づくり、発話を促すような質問、繰り返しの技法を使って、とにかく要介護者の話を聴いて差し上げるのです。
いかに要介護者の話に耳を傾け、その気持ちに寄り添えるか。これこそ、真のコミュニケーションであるといえます。

要介護者(高齢者や障がい者等)のなかには、日ごろの悩み、辛さ、不安などを誰かに聴いてほしいと思っている人がいるでしょう。 私たち介護者は、彼らの良き理解者となるために、一方的に話をするだけではなく、うなずき、相づちを打ち、しっかりと聴くことが求められます。
そして共感的に耳を傾け、言葉の裏側にある要介護者の感情の背景に目を向け、理解に努めましょう。

まとめ

介護者は要介護者とのコミュニケーションを通して、良好な人間関係を築くことが重要です。そして、医療・介護メンバーと一緒になって、より良い介護の提供に繋げる力が求められています。

介護を提供する側、提供される側、いずれも人です。人と人がが交わすコミュニケーションには、お互いの心を通わせたり、相互理解を深めたりする力があります。その力を信じて、要介護者の理解に努めましょう。

今回紹介したコミュニケーション技術を実践して、要介護者の理解を深め、互いの心を通わせながら、よりよい人間関係の構築=よい介護を目指してください。

参考文献

  1. 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2016)『新・介護福祉士養成講座 コミュニケーション技術』第3版 中央法規
  2. 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2016)『新・介護福祉士養成講座 認知症の理解』 第3版 中央法規
  3. 厚生労働省知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス こころの病気を知る 認知症
  4. 渡部律子(2006)『高齢者援助における相談面接の理論と実践』 医歯薬出版株式会社
  5. 諏訪茂樹(2010)『対人関係とコミュニケーション』第2版 中央法規