介護保険制度で利用できる福祉用具貸与・販売と住宅改修の範囲

多くの人が、住み慣れた地域・自宅で老後を迎えたいと願っています(参考1)。

その想いを実現するべく、介護保険制度では、介護が必要な方が自宅等で生活できるよう、居宅で受けられるサービスの充実化が図られています。

しかしながら、一般的な住宅は、屋内外に段差があったり、手すりが設置されていなかったりと、老後、介護に適した環境であるとは言い難いのが現状です。

住み慣れた自宅で快適に過ごすには、介護に適した環境にするための住宅改修が必要です。また、介護用ベッドや車いすなどの福祉用具があると、より生活がしやすくなります。

この記事では、自宅での生活を過ごしやすいものにするために、次の3点について紹介・解説します。

  • 介護保険制度における住宅改修とはどのような改修が対象か、費用の目安はどのくらいか
  • 介護保険制度における福祉用具貸与・販売とはどのような用具が対象か、貸与と販売の違いは
  • それぞれを利用するうえでの注意点
住宅改修や、福祉用具のレンタル・購入の費用は、介護保険制度を利用することで、費用を抑えることができます。

住宅改修とは

まず、介護保険制度で使える住宅改修について解説します。対象者、概要、費用、種類、利用方法についてそれぞれ説明します。

介護保険制度を利用した住宅改修の対象者

介護保険制度の被保険者であり、要支援または要介護認定を受けた人が対象です。

介護保険制度を利用した住宅改修の概要

対象者が居住する住宅を改修する場合、かかった費用の一部を介護保険が負担してくれる仕組みです。

介護保険制度を利用した場合の費用(自己負担)

住宅改修の上限額は、20万円/生涯(自己負担分を含む)までで、要介護区分にかかわらず定額です。
例えば、改修費用が20万円だった場合は次のとおりです。

保険適用 自己負担額
18万円 2万円(利用者負担が1割の場合)

上限額を超過した場合

20万円を超える改修を行った場合、その超過分は全額自己負担となります。例えば、改修費用が25万円だった場合は次のとおりです。

保険適用 自己負担額
18万円 2万円(利用者負担が1割の場合)+超過分5万円=7万円

ただし、次のようなケースの場合は、既に使用した住宅改修の限度額がリセットされ、再度20万円まで使うことができます。

  • 要介護状態区分が3段階上昇した場合
  • 別の住宅等に引っ越した場合

費用が20万円未満の場合

住宅改修に要した費用が20万円未満の場合、残額分で今後の改修費用に充てることができます。例えば、改修費用が10万円だった場合は次のとおりです。

保険適用 自己負担額
9万円 1万円(利用者負担が1割の場合)

残額10万円は次回の改修費用に充てることが出来ます。

介護保険制度を利用した住宅改修の種類

住宅改修の種類は、次の6つです(参考2、3)。

品目
手すりの取り付け 廊下、階段、トイレ、浴室、玄関等の手すりの設置
住居内または玄関から道路までの段差の解消 敷居の平滑化、スロープの設置、浴室床のかさ上げ等
滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更 畳・じゅうたん等
引き戸等への扉の取替え 開き扉、引き戸、ドアノブ交換等
洋式便器等への便器の取替え
その他住宅改修に付帯して必要となる住宅改修 下地補強、壁・柱・床材の変更等

住宅が賃貸物件の場合は、家主の承諾が得られれば改修できます。ただし、退去の際に原状回復義務が発生した場合は、この費用は介護保険では賄われず、実費負担となるので注意が必要です。

住宅改修における介護保険制度の利用方法

介護保険制度を利用して住宅改修を行う場合には、次のような手順を踏みます(参考4)。

STEP.1
書類の作成
宅改修をする前に、担当の介護支援専門員等に「申請書」「住宅改修が必要な理由書」を作ってもらう。
STEP.2
業者の選定
業者を選択する。業者へ見積書作成を依頼する。
STEP.3
市町村に申請
改修前の写真・業者の見積書などを付けて、改修前に市町村に申請する。
STEP.4
業者に発注
市町村の決定が下りてから、業者に改修を発注する。
STEP.5
改修
業者が改修工事を行う。
STEP.6
費用の支払い
改修が完成したら、利用者は業者に費用を支払う。
STEP.7
市町村に書類の提出
利用者は領収書、工事費内訳書、住宅改修完成後の状態を確認できる書類、住宅改修費支給申請書等を市町村に提出する。
STEP.8
償還払いを受ける
改修にかかった費用の9割(所得により8~7割)が利用者に償還払いされる。

ただし、やむを得ない場合は、完成後に申請することも可能です。
介護保険制度を利用して住宅改修を行なう場合、まずは担当する介護支援専門員や市町村窓口に相談してみましょう。

福祉用具とは

次に、福祉用具について解説します。
福祉用具とは、介護が必要な方の日常生活をより良くするため、自立した日常生活を営むことができるようにする用具を指します(参考5)。 具体的には、車いすや介護用ベッド、杖等があります。

福祉用具貸与と特定福祉用具販売の違い

使用する福祉用具によって、レンタルできるものと購入するものに分けられています。

福祉用具貸与 福祉用具をレンタルできる
特定福祉用具販売 福祉用具を購入できる

車いすや介護用ベッド等の福祉用具はレンタルの対象となっている一方で、排せつ用具や入浴用具など、再利用に抵抗感があるものは購入の対象品目となります。また、使用によって品質が劣化するものも同様です。

どのような福祉用具を選ぶべきか

福祉用具の利用にあたっては、利用者する方や介護を行う方のニーズに合わせて選ぶようにしましょう。

また、要介護区分に応じて利用の制限があるため、全ての用具をレンタル・購入できる訳ではありません。希望する用具が利用可能かどうか、担当の介護支援専門員に相談してみましょう。

福祉用具貸与(レンタル)の対象品目

レンタルできる福祉用具は次の13品目です(参考6、7)。

No 品目
1 車いす
2 車いす付属品 車いすの座面に敷くクッション等
3 特殊寝台 ギャッジアップなどができる電動ベッド等
4 特殊寝台付属品 ベッドサイドに設置するレール等
5 床ずれ防止用具 エアーマット等
6 体位変換器 床ずれ防止のための体位変換器
7 手すり 工事を伴わない手すり等
8 スロープ 段差解消のための簡易スロープ等
9 歩行器
10 歩行補助杖 松葉杖、4点杖等
11 認知症老人徘徊感知機器 徘徊を察知するための機器
12 移動用リフト ベッドから車いすなどに移るための移動用リフト。つり具部分は除く。
13 自動排泄処理装置 尿や便を自動的に吸引する装置
注意
1~6、11、12は原則として要介護2以上が対象、13は原則として、要介護4以上が対象

福祉用具貸与の費用負担

自己負担額はレンタルにかかる費用の1〜3割です(所得により異なる)。
レンタル費用は福祉用具の種類・品目、業者によって異なりますが、利用者が適切な価格で使えるように、同じ製品に関しては全国平均の貸与価格が公表されています(参考8)。

特定福祉用具販売(購入)の対象品目

購入が必要な特定福祉用具は次の5つです(参考9)。

No 品目
1 腰掛け便座 和式便器の上に置き、腰掛け式にする便座、ポータブルトイレ等
2 自動排泄処理装置の交換可能な部品 尿を吸引する機械のチューブ、タンク等
3 入浴補助用具 入浴用いす、浴槽のてすり等
4 簡易浴槽 空気式の簡易浴槽、折りたたみ式で居宅内に運べる浴槽
5 移動用リフトのつり具部分

特定福祉用具販売の費用負担

自己負担額は、購入にかかった費用の1~3割です(所得によって異なる)。
利用者は特定福祉用具を取り扱う事業者(都道府県が指定)から購入し、全額を支払った後に市町村に申請します。その後、自己負担分を除いた金額が、福祉用具購入費として返還されます(償還払い)。

福祉用具の購入限度額は、上限10万円/年度までです(自己負担分を含む)。破損を除き、同じものを同一年度内で再購入することはできません。

まとめ

この記事では、利用者が自宅等での生活を継続できるようになるために利用する「住宅改修」と「福祉用具貸与」「特定福祉用具販売」について解説しました。
それぞれ、利用のための順序やルールが定められていたり、上限額が設けられていたりします。制度の利用の際には、市町村の窓口や介護支援専門員に相談してみてください。

参考文献

  1. 厚生労働省人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書
  2. 厚生労働省介護保険における福祉用具
  3. 一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集(2021)『最新 社会福祉士養成講座 高齢者福祉』中央法規 p106
  4. 厚生労働省社保審ー介護給付費分科会 第180回(R2.7.20)資料6 福祉用具・住宅改修
  5. 厚生労働省社保審ー介護給付費分科会 第180回(R2.7.20)資料6 福祉用具・住宅改修
  6. 厚生労働省介護保険における福祉用具
  7. 厚生労働省 『最新 社会福祉士養成講座 高齢者福祉』中央法規 p101
  8. 厚生労働省全国平均貸与価格及び貸与価格の上限(過去公表分)
  9. 厚生労働省介護保険における福祉用具