「認知症で無表情の祖母がネイルで笑顔になったから」ー福祉ネイリスト・堀口カストゥリさんインタビュー〈前編〉
ekaigowithオリジナルインタビュー第一弾として、福祉ネイリストとしてご活躍される堀口カストゥリさん(X URL:https://twitter.com/nail_pen)にお話を伺いました! 前編では、トゥリさんがなぜネイルペンを作ったきっかけや、ネイルペンのすごいところをご紹介しています。 トゥリさんについて トゥリさんの仕事内容を教えてください。 高齢者向けの化粧品のメーカーという形で、企画開発から販売まで行っています。メーカーとしての業務をしつつ、介護施設さんにお伺いをして、 美容のレクリエーションを提供しています。 どのような経緯でこのお仕事を始めたのでしょうか。また、トゥリさんがネイルペンを作られたきっかけを教えてください。 元々、美容メーカーに勤めていたんですが、ちょうどコロナ禍が来まして。そのとき、今年89歳になる私の祖母が1人暮らしをしていたんです。 元々はおしゃれで、1人でカフェに行ったりするおばあちゃんでしたが、コロナで外出や人に会うのが怖くなってしまって。久しぶりに会った時には、認知症になっていて介護度も上がっていたんです。そこで初めて、介護というものにぶつかりました。祖母は何を喋ってもリアクションがなく、無表情で。 どうしようと思った時に、私がネイルの資格を持っていたので、 なんとなくマニキュアを塗ってあげたんです。すると、全く表情がなかったおばあちゃんが、じーっと爪を見て、久しぶりににこっと「ありがとう」と言ってくれて。もしかしたら、これが元気になるきっかけになるかもと思って、頻繁に会いに行き、マニキュアを塗るようになりました。 そこから祖母は少しずつ喋るようになって、この色がいいとか、施設の人が褒めてくれたとか、報告してくれるようになって。ついに私の名前も分かるほど回復したのが、奇跡だと思ったんです。 そこから色々調べたら、化粧療法といって、お化粧によって女性は元気になったり、笑顔が増えるという、きちんとした研究結果が色々と出ていると知りました。 こんなにいいものなのに、どうして広まっていないんだろうと考えたとき、今のマニキュアは懸念されるものが多く、良いものがないのだと気づいて。 私自身、メーカーの知識があるので、じゃあ自分で作っちゃおうと。介護従事者のみなさんに色んなお話を聞いて、 匂いが強いとか乾きが遅いとか、除光液使わなきゃいけないとか、爪が痛んじゃうとか、マイナス要素を全部書き出して、それと逆のものを作ろうと思いました。 トゥリさんの1日のスケジュールはどんな感じですか? 朝、今日1日のスケジュールを立てて、10時から11時の朝の時間を営業の時間にして、ひたすらテレアポで施設さんに電話しています。 基本的にレクが14時から15時の時間なので、施設さんにお伺いして、レクリエーションを行います。15時頃、レクが終わった後に片付けしたり、その時に撮った写真を施設さんにお送りしたりします。その後、また営業の時間 があって、夜は基本事務作業です。 商品をECサイトでも販売しているので、請求書の発行だったり、発送業務や在庫管理など、バックオフィスの業務があります。また、snsの投稿をしたり、合間にyoutubeの撮影・編集をしたり。レクの時間以外で、営業や事務作業をするような毎日を過ごしています。 全てお一人で行っているんですか!? はい、1人で全部行っています!だからレクも、自分ひとりだとまかないきれない数になってきました…最近はアルバイトで、誰かできる方いらっしゃらないかと考えていますが、基本は自分ひとりでやっています! そのような、お一人でこなしきれないほどの需要は、どのように増えていったのでしょうか。 営業ですね。とにかく営業して、「実際に見てみてください。実際にレクを体験していただいたら良さをわかっていただけるので!」と、実際に体感していただく場を設けてもらえるよう提案しています。 そこで利用者の方の反応を見ていただき、導入を決めていただいて毎月行く流れが出来ています。 初めはトライアルで提供するんですね。 そうです。やはり1回試すと利用者の方が「こんなに喜ぶんだ」と職員さんが普段の様子と比較して違いに気づいてくださいます。 ネイルをして女性らしいお顔になることももちろんですが、ご自身でも塗れている姿を見て、職員さんは驚かれています。本当に利用者の方が、自分で簡単に塗ることができてしまうんですよね。 水性なので、豪快に塗ってもらっても、皮膚についてもすぐ取れるので、好きなように塗っていただけます。そのことが「この歳でも自分でネイルができるんだ」という成功体験に繋がって、喜びが増しています。 それってこの形(ペン型)でなきゃできないことなので。まずは体験していただいて、毎月お伺いすることで需要は伸びていますね。 ネイルペンについて ネイルペン完成までの経緯についてお聞きします。このネイルペンの完成までにはどのくらいかかったのでしょうか。 完成したのは去年(2022年)の6月なので、1年と4か月前ですね。(取材時は2023年10月中旬) 開発には大体1年半ぐらいかかりました。 ネイルペンを作ってくれる工場探しから初めて。このペン型っていうところで(工場に)断られたり、生産数がたくさん必要だったり。 そもそもペンに液体を容れる技術に苦戦しました。液体が柔らかすぎると、筆先から垂れてきてしまい、硬すぎると筆先から出てこなくなったりで、商品として成り立たせるのも難しく。 他にも、発色が悪かったり、落とす時に全然落ちなかったり。何回も何回も改良して、やっと今の商品が出来上がりました。 開発する上で苦労したことはなんでしょうか。 一般的なマニキュアは、有機溶剤を使用しているので発色がしっかり出て持ちが良いという良い点があります。 その代わり、臭いがきつかったり除光液がないと落とせないという悪い点があるのですが、、、 水性ネイルは有機溶剤を使用していないため、剥がして落とせる性質を維持しながら、発色をよくすることが難しくて、すごく苦戦しました。 でも、使っていただいた皆さんからは「こんなに発色するの。水性なのに」って言っていただけるんです。せっかくなので塗ってみますか。 (実際に塗って頂き、ネイルペンを初体験) いいんですか、ありがとうございます! (塗ってみて)すごくきれい!さっと塗っただけなのにムラがないのは感動です。 水性だとこんなに色がつかないですよね。色を出しつつ、筆先からも出てくるぐらいの柔らかさにするのに結構かかりましたね。 初めから、形はペンだと決まっていたのでしょうか。 そうですね。普通のマニキュアで何がダメなのか、色んな人に尋ねたら、みんな「塗るのが難しい」と言っていて。 介護士さんも「慣れている人じゃなきゃ出来ない」と言っていたので、ペンにすれば誰でも簡単に 塗れるのではないかと。 馴染み深い文房具の形で、皆さんが塗り絵をするような感覚で塗っていただけるので、この形に決めました。 ここからはネイルペンについて色々と深掘りしていきます!このネイルは、どれくらい持つんですか? 家事をされない方だと1週間とか2週間。 逆に取りたい時はシールみたいにピリってはがせるので、 … Continue reading 「認知症で無表情の祖母がネイルで笑顔になったから」ー福祉ネイリスト・堀口カストゥリさんインタビュー〈前編〉
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