発達障害を抱える子どもを支援するお仕事とは

発達障害を抱える子どもたちを支援する仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、発達障害の特徴を解説するとともに、それを支える仕事・資格を紹介します。

発達障害とは

発達障害とは、自閉症スペクトラム症、注意欠陥多動性障害、学習障害など、脳機能の発達に関係する障害です(参考1)。

発達障害のある人は、他人との関係づくりやコミュニケーションなどが苦手ですが、一方で特定の分野において優れた能力が発揮される場合があります。
障害の原因はまだよくわかっていませんが、脳機能の障害だと考えられています(参考2)。

以下、発達障害における代表的な障害・特徴を解説します。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASD(自閉スペクトラム症)は、3歳くらいまでに現れる発達障害の一つです。人によって特徴は異なりますが、次のようなものがあります(参考3、参考4)。

特徴 内容・例
対人関係がとても苦手 感情を交えた対人関係を構築するのが困難等
言語の発達の遅れ オウム返しをしてしまう、会話が成り立たない等
強いこだわり・執着がある ある特定の事柄(例:電車、新幹線)の話に終始する等
反復された行動 積み木をひたすら並べ続ける等

女児よりも男児に多い障害で(参考5)、これらの特徴があることによって、人間関係の構築や社会生活に支障が出て、医療・福祉のサポートを必要とします。

ASD(自閉スペクトラム症)について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック!
ASD(自閉スペクトラム症)とは?特性や原因、配慮の仕方を解説

ADHD(注意欠陥多動性障害)

ADHD(注意欠陥多動性障害)は、不注意・多動性を特徴とする行動障害で、12歳までに発症し(参考6)、年齢の割に落ち着きがない等の特徴があります。具体的には次のとおりです。

特徴 内容・例
不注意 活動に集中できない、気が散りやすい、物をなくしやすい、順序だてて活動に取り組めない等
多動・衝動性 じっとしていられない、着席中に手をそわそわさせる、着席が期待されている状況なのに離席してしまう、静かに遊べない、待つことが苦手で他人の邪魔をしてしまう等

女児よりも男児の発症が多く、学業・対人関係等に支障が出て、専門的な治療・支援を必要とする障害です。

ADHD(注意欠陥多動性障害)について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック!
ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?特性や治療方法、配慮の仕方について解説

LD(学習障害)

LD(学習障害)は、全般的な知的発達に遅れがないのに、「読む」「書く」「計算する」といった特定のことがうまくできない点に特徴があります(参考7、参考8)。
目に見えにくい障害の一つで、障害の発見が遅れる(小学生になってから初めて分かる)場合があります。特徴を具体的に見ていきましょう。

特徴 内容・例
読字障害 音読のスピードが著しく遅い、読み間違いが頻発する、音読できない文字を読み飛ばす、音読できない漢字を「ムムム」とごまかす
書字障害 バランスの取れた文字を書くことができない、文字と文字の間に不自然な空白がある、漢字の「へん」と「つくり」のバランスが悪い等
算数障害 規則性のある数列の理解が困難、数という概念が理解できない、計算ができない等

一方で、音楽・美術等の学習上の難しさがない分野は、他の生徒よりも良い成績を修めることがあります。また、必ずしも全般的な知的発達に遅れがあるわけではありません。

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LD(学習障害)とは?特性や治療方法、配慮の仕方を知ろう

チック症

チック症とは、多種類の運動チックと音声チックが1年以上にわたり続く障害です(参考9)。次のような特徴です。

特徴 内容・例
運動チック 突然起こる素早い運動の繰り返し(自分の意思に反して突然大きな声をあげる、首を何度も振る動作をしてしまう、まばたきを繰り返してしまう)
音声チック 突然起こる発声の繰り返し(小さな咳払いを繰り返す、「ンンン」といった低い音を出し続ける、オウム返し(他者の言った言葉を繰り返して言う))

周りから見れば、一つの「癖」のようにみなされることがありますが、チック症の人にとっては無意識に出てくる動作であり、精神的な苦痛を伴いやすいです。

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チック症について知ろう!症状や原因、治療方法を解説

吃音

吃音は、話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつです。幼児期(2~5歳)に発症する場合がほとんどで、原因は明確には分かっていません(参考10)。主に次の3つの特徴があります。

特徴 内容・例
音のくりかえし(連発) 「きききき、きのう」「メ、メ、メモリ」
引き伸ばし(伸発) 「きーーのう」「ろーーーそく」
言葉を出せずに間が空いてしまう(難発、ブロック) 「・・・き、きのう」「っ・・っっはいっ(返事)」

吃音を抱える人のなかには、うつや適応障害等の精神障害や、他の発達障害を併発している場合があります(参考11)。

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発達障害の「吃音(きつおん)」とは?症状や配慮の仕方を学ぼう

発達障害を抱える子どもが利用する福祉サービス

ここからは、発達障害を抱える子どもが利用できる代表的な福祉サービスを紹介します。

児童発達支援

児童発達支援は、主に小学校就学前までの障害のある子どもが通い、支援を受けるための施設です(参考12)。
日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、遊びや学びの場を提供しています。詳しくは次のとおりです。

サービスの種類 内容
発達支援(本人支援) 子どもが将来、日常生活や社会生活を営めるようにするための支援。①健康・生活、②運動・感覚、③認知・行動、④言語・コミュニケーション、⑤人間関係・社会性の5領域に分かれる。
発達支援(移行支援) 子どもが、地域の保育・教育等を受けられるような総合的な支援、同年代の子どもたちとの関わりのなかで友人を作る等の支援等
家庭支援 子どもを育てる家族に対して行う、物理的・精神的な支援等
地域支援 子どもが地域で適切な支援を受けられるように、医療・福祉の機関等と連携を強めるための支援等

このように、子どもとその家族に対する支援を行うとともに、様々な地域支援が受けられるような環境づくりを行います。

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児童発達支援とは?仕事内容や職種、持っていると役立つ資格、やりがいについて詳しく解説!

放課後等デイサービス

放課後等デイサービスは、6歳〜18歳までの障害のある子どもが、放課後や夏休みなどの長期休暇に利用できる福祉サービスです(参考13)。「障害児にとっての学童」といえるでしょう。
提供されるサービスは施設によって異なりますが、ここでは代表的なものを紹介します。

種類 狙い 内容・例
自立支援と日常生活の充実のための活動 日常生活で必要な能力の養成、学習に必要な能力の養成、コミュニケーションスキル向上等 着替えや掃除、料理、ひらがなの書き方・計算の仕方等
創作活動 自己表現 粘土による造形、書道、絵画、季節に合わせた創作(クリスマス、正月の飾り)等
地域交流の機会の提供 社会経験、生活経験を積む、地域社会との交流、障害への理解の促進 地域住民との交流、動物園、植物園、工場見学等
余暇の提供 居場所づくり、友人づくり、余暇を楽しむ 思い思いの余暇活動、遊具で遊ぶ、運動、ダンス等

個別の発達支援や集団活動を通して、家と学校以外の居場所づくり、友人づくりをするのが狙いです。

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放課後等デイサービス 放課後等デイサービス(放デイ)とは?仕事内容や職種、持っていると役立つ資格、やりがいについて詳しく解説!

発達障害を抱える子どもを支援する職種

ここからは、発達障害児を対象に支援を行う専門職等を紹介します。

児童発達支援管理責任者

児童発達支援管理責任者は、子どもの成長や発達度合いや障害等に応じて、家庭や関係機関などと連携を図りながら、療育を推進するリーダー的存在です。
具体的な仕事内容は次のとおりです。

仕事内容

子どもとその家族のニーズを把握して、一人ひとりに合わせた個別支援計画を作成します。計画に基づいた支援が提供されるように関係機関と調整し、必要に応じて支援スタッフへの助言・指導を行いながら、プロセスを管理・評価する役割を担います。
施設・事業所によっては、管理者を兼務している場合があります。

児童発達支援管理責任者になるためには

児童発達支援管理責任者になるには、次の2つの要件を満たさなければなりません(参考14)。

要件 内容
実務経験 児童福祉施設や障害者福祉施設等において、相談支援業務に従事した期間が3年以上
研修の修了 児童発達支援管理責任者基礎研修および児童発達支援管理責任者実践研修を受講し修了

なお、実務経験の範囲は、都道府県が独自に基準を設けている場合があります。

詳細要件について詳しく知りたい方は、こちらの記事をチェック!
【2023年6月最新】児童発達支援管理責任者(児発管)とは? 資格の取り方・仕事内容・給料について分かりやすく解説

保育士

保育士は、子どもが通所する保育園等において、保護者に代わって保育を行います。
発達障害児が通所・入所する施設等においては、対象児童の保育を行うとともに、次のような役割を担います。

仕事内容(児発/放デイでの)

個別支援計画に沿って、子どもが自立した生活ができるようにするための訓練や、集団生活への適応するための訓練、その他学習指導などを行います。

支援分類 内容
日常生活の支援 リトミックやゲームといった室内遊び、給食・おやつでの食育、手洗いやうがい、着替え、排泄等の日常生活上の支援・療育等
その他 保護者とのコミュニケーションを通じた情報交換、保護者の相談対応、子どもの送迎等

児童発達支援や放課後等デイサービスでの保育士の具体的な働き方について知りたい方は、こちらの記事をチェック!
児童発達支援・放課後等デイサービスでの保育士の働き方とは?

保育士になるためには

保育士になるためには、主に次のようなルートがあります(参考15)。

ルート 内容
保育士養成校に進学するルート 厚生労働大臣の指定する保育士養成校(大学、短期大学、専門学校)に進学し、所定の専門教育を修了する。
保育士試験を受験するルート 最終学歴が学校教育法に基づく大学、短期大学、専門学校(2年以上)卒業の場合、保育士試験に合格する。
実務経験を積むルート 児童福祉施設等で2年間の実務経験を積み、保育士試験に合格する。

なお、保育士試験は年に2回実施されていて、合格率は19~25%程度です(参考16)。

児童指導員

児童指導員は、子どもに対する日常生活の支援、社会ルールの習得、学習や遊びなどの支援・指導に当たります(参考17)。

仕事内容

所属する施設等によって従事する仕事の内容は異なりますが、放課後等デイサービスでは、主に次のような業務に携わります。

  • 発達に課題を持った子ども達への支援
  • 保護者からの教育、育児、発関する関する相談
  • 個別の支援計画の作成
  • 療育内容の記録や事務作業
  • 送迎業務(学校へのお迎え、ご自宅への送り)等

児童指導員になるためには

児童指導員になるためには、指導員任用資格が必要となります。
この任用資格は、次のいずれかの方法で取得することができます(参考18)。

  • 4年制大学や通信制大学で社会福祉学、心理学、教育学、社会学を専修する学部、学科を卒業する
  • 社会福祉士、精神保健福祉士のいずれかの資格を取得している
  • 高校若しくは中等教育学校を卒業し、2年以上児童福祉事業に従事する
  • 3年以上児童福祉事業に従事し、厚生労働大臣又は都道府県知事から認定される
  • 幼稚園教諭、小中学校、高等学校の教員免許を所有しており、厚生労働大臣又は都道府県知事から認定される
児童指導員について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェック!
児童指導員とは?任用資格の要件や仕事内容、働く場所、給料について詳しく解説!

その他(OT/PT/ST、公認心理師)

その他、医療・心理に関わる専門職が、発達障害児の支援においてどのように関わるのか紹介します。

職種 関わり・仕事内容
理学療法士(PT) 子どもに見られる運動のぎこちなさ、不器用さに対して、専門的な観点をもってアプローチする。園内の遊具を使用して、遊びの中で身体を使い、適切な指導・支援を行うことで、ボディイメージの発達を促す。
作業療法士(OT) 鉛筆やスプーンをうまく握れない、お箸を使ってご飯が食べられない等、道具を使った日常生活動作に困難がある場合、専門的な知識を用いてサポートを行う。
言語聴覚士(ST) 子どもの聞く、話す、読む、書く、食事等の面で専門的アプローチを行う。発達段階を見極めながら、適切な支援を行うことで、発語やコミュニケーションの発達を促す。
公認心理師 心理学に関する専門的知識及び技術をもって、子どもの心理に対してアプローチを行う。子どもの心理状態の観察と分析、発達障害に関する相談支援、本人・家族に対するカウンセリング等(参考19)。

各職種について詳しく知りたい方は、こちらの記事をチェック!
理学療法士 理学療法士とは? 仕事内容、資格取得のメリットについて分かりやすく解説 作業療法士とは? 仕事内容、資格取得のメリットについて分かりやすく解説 言語聴覚士の仕事内容とは? 資格の取り方、取得メリットを分かりやすく解説 公認心理師 公認心理師とは? 仕事内容、資格取得のメリットについて分かりやすく解説

まとめ

この記事では、発達障害児の特徴とそれを支援する仕事・資格を紹介してきました。

発達障害は外見からは分かりにくいうえ、周りからの理解が得られ難い障害です。また、その症状・特徴は一人ひとり違い、抱えているニーズも異なります。

子どもたちが特性に合った支援を受けながら、成長できるような環境づくりが求められています。

参考文献

  1. 政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」
  2. 厚生労働省「発達障害の理解のために」
  3. 医療情報科学研究所・編(2022)「社会福祉士国家試験のためのレビューブック2023」メディックメディア P49
  4. 大村一史(2020)「ASDの認知機能における性差」『山形大学紀要(教育科学)』第17巻 第3号 山形大学
  5. 医療情報科学研究所・編(2022)「社会福祉士国家試験のためのレビューブック2023」メディックメディア P49
  6. 政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」
  7. e-ヘルスネット(情報提供)「学習障害」
  8. 政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」
  9. 富里 周太、大石 直樹、浅野 和海、渡部 佳弘、小川 郁(2016)「吃音に併存する発達障害・精神神経疾患に関する検討」音声言語医学 57 (1), 7-11, 2016 日本音声言語医学会
  10. 国立障害者リハビリテーションセンター 聴覚言語機能障害研究所「吃音について」
  11. 厚生労働省「児童発達支援ガイドライン」
  12. 厚生労働省「放課後等デイサービスガイドライン」
  13. 厚生労働省「サービス管理責任者及び児童発達支援管理責任者の猶予措置について 社会保障審議会障害者部会第88回(H29.12.11) 資料4」
  14. 厚生労働省「ハロー ミライの保育士 保育士になるためには」
  15. 厚生労働省「「保育士の現状と主な取組」保育の現場・職業の魅力向上検討会(第5回)令和2年8月24日参考資料1」
  16. 厚生労働省 職業情報提供サイト「児童指導員」
  17. 厚生労働省 職業情報提供サイト「児童指導員」
  18. 厚生労働省 職業情報提供サイト「公認心理師」