社長インタビュー

秋山記念生命科学振興財団

秋山記念生命科学振興財団
理事長 秋山孝二氏

秋山氏とイーライフ(e介護転職運営)北上

第2回「介護と事業」(4回連載)

前回に引き続きまして秋山様に介護についてお聞きします。

奉仕の精神が介護事業にも当てはまりますか?

はい。ただ、競争の中で「収益性の向上」と「顧客に対する満足」を位置づけることが重要

北上

秋山さんは秋山愛生舘という100年以上続く老舗の、素晴らしい企業の5代目社長だったのですけれども、いろいろあってスズケンさんと合併していくなかで、秋山さんの著書のなかで書いておられたのが、合併はしたけれども秋山愛生舘のDNAは今も生き続けている。それは奉仕の精神だということがあったのです。

私も非常に感銘を受けまして、いわゆる奉仕の精神というのは言い方を換えれば利他の精神ということですね。この理念が本当に息づいていたからこそ100年も続いたし、今も立派にDNAが生き続けているのではないかなと思います。

これはまさしく介護事業に当てはまることだと思うのです。

秋山氏

まったくそう思います。

ただグローバル競争のなかで、とくに上場企業という観点から見たときの「収益性の向上」と、「顧客に対する満足」というのは、せめぎ合いだと思います。ですから、そのあたりはスタート時点できっちり位置づけることは極めて重要です。


実際にやっていったときに、例えば介護をする高齢者の方のニーズをどんどん聞いていくと、ことごとく収益性を減らすことにつながっていくという、そのときにいつも判断を迫られます。


上場企業の事業として適切なのかどうなのか、NPOのほうがいいのか、あるいは未上場企業で株式の継続性を優先することがいいのか、そういう判断を迫られるときが来るような気がするのです。

超高齢化社会での介護は国策が適しているか?

破綻状態の国の財政に補助金を期待するのは難しい

北上

実は私も一経営者としても、上場会社は介護事業にとって本当に最適なのかということを本当に質問させていただきたいと思っていたのです。


要は超高齢化社会というのがこれだけ明らかな状況では、国策といいますか、第3セクターのような出資形態にするとか、そのような事業形態のほうが適しているのではないかとちょっと思っていたのです。

秋山氏

国策というのは補助金の意味合いですか。

北上

いわゆる目的化税、消費税云々がありますけれど、ある程度、税金を使ってということですね。

秋山氏

そのようになっていくと、補助金をお願いするというスタンスに仕組みが変わってくると思うのです。

基本的な流れとしては、今ほとんど破綻状態の国の財政からすると、補助金を期待するのはビジネスセクターとしてはちょっと難しいのかなと思います。

私が感じるのは、先ほどコミュニティー型といったのは、例えばお金の調達ということから考えたときに、誰から調達する必要があるだろうかと考えると、上場というと不特定多数の、グローバルなということが前提ですね。

この介護ビジネスというのはむしろコミュニティーの人たちのお金、例えば地域の人たちのお金の循環ということは考えられないのかなと思うときがあるのです。それが会員制ということなのかどうなのかはちょっとわからないのですけれども。
あるいは例えば地域振興債とかそういうものを発行できる事業体というのは一体どういうものがあるのかとか。性格として外国からのお金をどうとかという話ではないですね。

ですから事業の性質とお金の集め方で、誰から投資をしてもらうか。
サービスの費用を誰から取るかというのはわりと判りやすいのだけれども、それに対して投資をしてくれる人をどう想定するかというのは、ビジネスモデルにも非常に影響してくるような気がするのです。

お金を集める前に大事な事は

どういう事業体で、社会的に意味のあるものをやり続けるのかが大事

北上

非常に興味深いところです。地域のファンドのようなものをつくるというお考えですか。

秋山氏

そうです、例えばね。

ただそうは言っても、どんなお金を集めるにしてもまず収益が上がらなければ話にならなりません。
赤字でいいという話はありませんから。
やっている事業の形態と投資して頂くお金の集め方というのは一致させておかないと、どこかに軋轢がくるような気がするのです。

秋山愛生舘では100周年に向けて幅広く事業展開して、有料老人ホームなども経営再建を頼まれてやりました。

ただ、秋山愛生舘が東証上場した後の株主総会で、なぜ北海道の札幌市内の有料老人ホームなのかと聞かれたときに、説明しきれないのでは、と思いましたね。
札幌でやっているのならどうしてそれを全国展開しないのか、と言われたときにグッと詰まるわけです。
その事業に価値がないわけではないのだけれども、全国展開とかあるいはアジアへとかいうのとは明らかに違いますよね。

結局、介護を専業としている企業に事業を売却しましたが、今はそこが隆々とやっていますからそれでよかったのだと思うのです。

どういう事業体でこういう社会的に意味のあるものをやり続けるのか、ということは大事なことだと思います。

北上

たしかにそうですね。
先ほどの地域の、コミュニティーのファンドのようなものをつくるというのはある意味でブレイクスルーだと思うのです。
ただ、その運用の母体としては誰が運用していくのか。
国の保険がまだきちんと機能していないなかで、どういう運用の仕方がベストなのかということですね。

事業参入の方法

直接現場でするか、評価しながら良質な所を取りまとめる

秋山氏

ですから事業参入の場合は、ビジネスを直接現場でやるという方法とするか、あるいは事業をやっているところを評価しながら良質な、信頼できるところを取りまとめるファンド的な方法とするかは、考える余地があるのではないかなと思います。

あるいは情報の集約のところを、今回のこの「e介護」が担うこともありますよね。

北上

そうですね。
私どもが立ち上げるインターネット上での求人サイトというのは、介護事業者のほうとしてはヘルパーさんが足りない、ヘルパーさんとしては働きたいというニーズを捉えています。
そういう人たちの雇用のマッチングをうまくやろうというポリシーで立ち上げるわけです。

それからいつになるかわかりませんけれども今後有料老人ホームの斡旋、紹介といいますか。
そういうこともやっていけたらなと考えているのです。

秋山氏

今それは皆さん非常に真剣に考えているのではないかと思います。
情報を手に入れるのは、せいぜいチラシとか世間の評判とか、あるいは入っている人に聞くというようなことですから。
私にもいろいろ相談がきます。

北上

有料介護老人ホームに入れる方もいますが、そもそも入れない方が圧倒的に多いのです。
有料介護老人ホームは、平気で入会金が2,000万円、3,000万円するわけです。

そのなかで最終的にお金を払ったらいうなれば終のすみ家になるというなかで、なんとかその人に合ったベストな介護施設をチョイスできる手助けができないかなと思っているのです。
自分たちの事業としてやるか、やらないかは別としても、ある種格付けとかそのような評価制度を行うなど、接点をもちたいなということなのです。

今後、介護業界で私どもはIT企業として役に立っていきたいなと考えています。

秋山氏

その視点は必要ですし、施設、あるいは今サービスをやっている人たちにとっても大切で、やはりそういうことをやるのは国ではないのです。
入居している人の満足度、信頼感が大事だと思います。

情報に客観性を持たせ評価できる為に

宣伝ではなく等身大の本当の開示をする

北上

よく格付けで、金融機関でしたらムーディーズやスタンダード&プアーズなどが、フレンチの一流店の格付けはミシュランがございます。
あそこまでとはいわなくても情報に客観性をもたせて評価制度をしていくというのは極めて難しいことだと思うのです。

その点で何かご意見はございますか。

秋山氏

一つは、基本的には個々のサービス提供をしている人たちの情報開示ですね。
黙っていれば、やっている仕事が密室とか閉ざされた場面が多いので、それを開示するというところがまず原点でしょうね。
宣伝ではなくて等身大の本当の開示です。

日本は上場会社でも結局開示した人が損をしているという、隠し通していたほうが結果的に得をしているという現実がまだあると思うのです。
やはりまだ適時開示しないのです。

今だんだんとトップ企業が勇気をもって、特に悪い話は速やかに開示するということで、ずいぶんメディアには叩かれるけれども、そのことでその業界がよくなっていくわけです。

北上

最近、高齢化社会とか健康とか世の中にいろいろキーワードがあって、自宅にあった本を適当に見ると『患者が選んだ日本の医者100医』という本がありました。

たまたま妻が、花粉症がひどくていい医者がないかということでその本で探していたらしいのですが、医者のランキングなどというものは今まである種タブー視もあったでしょうし、なかなか病院側も積極的ではなかったと思うのです。

秋山氏

広告というものに対する規制はあるけれども、逆に広告をたくさん出している先生とか医療機関がうさん臭いとかいろいろありますね。
それは規制するから出てきてしまうということなのだと思います。
実際、患者は自分の命をかけるわけですから本当に真剣に選んでいるのです。

評価を人に伝えようとするかどうかは別としても、実際に評価の開示はかなり動き出していると思います。

介護分野における必要な眼差し

それぞれのライフスタイルを尊重し多様性を担保すること

北上

話が前後してしまいますが、私どもはe介護転職というサイトを日本でナンバーワンにしたいと考えています。
これは決して世間の風潮的な、売上高とか利益とかそういったことでナンバーワンになるのではなくて、利用する人にベストなサイトである、介護業界にとってなくてはならないサイトであるというレベルにもっていきたいのです。

私どものサイトを見て働きたいと考えている人、私どものサイトに人材を募集しようとしている広告主、またはその事業所でサービスを受けるご年配の方々、その三者を良い状態でサポートできるようなサイトにしたい。
それで事業所の斡旋、紹介業も取り入れていきたいなというのがちょっとあったのです。

秋山氏

一言で「高齢者」といってもいろいろな人がいますから、相性などの問題があります。
有料老人ホームの経営のときにいくつかあったのですが、そのうちの一つで、最初は「介護付き」と称して診療所も併設したのです。

ところが入居希望の方というのは主治医をすでにおもちの方も多かったので、もし、こちらで用意した先生と相性が悪いときに、逃げ場がなくなるわけです。

それについては、むしろメニューを用意する、どこそこの病院の車が迎えにくるというようにして、メニューで行きたいところに行ける選択肢を整える、開放系にしておくほうが満足度はむしろ高いということがあります。


いろいろなキャリアや人生を送ってきている高齢者の人たちが集合的になる場合に、そのライフスタイルを施設に入ることによって変えろというのは理不尽ですよね。

ですから一番には、このビジネスは、「私はこうだ」という「多様性を担保できるサイト」である必要があるし、そういう場でないといけないということ。サービス提供者もそうだと思うのです。

現場としては限りなく標準化したほうがコストは安くなるけれども、一方で入居者は限りなく自分に合ったサービスを求める。そこがビジネスの一つの技術なのだと思います。サイト自身もそうあるべきではないかなと思います。

以前ある病院の院長とお話した時に、優秀な看護師だけを雇っていてはダメで、いろいろなタイプを揃えておかないと患者の満足度は上がらないとおっしゃっていました。
「なぜこんな看護師の人気があるのか」と調査すると、よく話を聞くとかやはりそういうことらしいのです。
患者は選ばれた人達ではないのだから、と語っていました。

一人の人間が生きてきた、人生の後半部分に対するサービスですから、ライフスタイルや経験など、その人の人生を限りなく尊重しながら、どれだけいいものを提供できるかという「多様性」をきっちり担保しないといけません。

以前経営した有料老人ホームに来られたお客さんの最初の質問が、「ここに来たらゲートボールをやらされるのじゃないでしょうね」ということだったのですよ。
「そんなことはありません。もちろんおやりになりたければそういう場所は提供します」といいましたけれども。

自立した高齢者の方たちというのは、限りなく自分のライフスタイルに誇りももっているということだと思います。

一方では動けなくなってくると自立を促すサービスとか、もう少し進んでいる場合はまた違うサービスを展開とか。

そういうことが、介護分野でサービスを提供する側に本当の意味で必要な眼差しだと私は思うのです。

北上

これは深いですね。
介護事業法によってサービス業の力が発揮される、または必要とされるわけではないと思いますし、やり直しがきかないサービス業だと思うのです。

例えばつい先日、あるブランド物の靴を購入して、取り寄せたのです。
そうしましたらいわゆる不良品だったのです。
そういう靴とか、あるいはダスキン等は、サービスを受けてもやり直しがききますし、限られた時間でやり直す機会がたくさんあると思います。

一方でお年寄りの方々というのは、言葉は悪いのですが若者ほど生きる時間はないですし、そこにまたストレスとかを強要されるようなサービスがあってはいけないわけです。

秋山氏

逆に変なサービス、質の悪いサービスゆえに老化を進めてしまうとか状態を悪くすることが加速してしまうとか考えられます。

北上

紙面の都合もありますので、秋山様とのお話は第3回へと続きます。⇒
(第2回終了。)

秋山記念生命科学振興財団 財団概要

秋山記念生命科学振興財団

■設立年月
1987年1月8日

■理事長
秋山 孝二

■お粉事業
【褒賞及び助成】
・秋山財団賞
・新渡戸・南原賞
・研究助成(一般助成・奨励助成)
・社会貢献活動助成
・ネットワーク形成事業助成

■その他の事業
・生命科学に関する講演会
・財団年報、ブックレットの刊行