社長インタビュー

秋山記念生命科学振興財団

秋山記念生命科学振興財団
理事長 秋山孝二氏

秋山氏とイーライフ(e介護転職運営)北上

第3回「介護従事者の離職」(4回連載)

第3回は介護従事者の離職についてお話をお聞きします。

介護従業者がやりがいを持って仕事を続けるには、どのような事に気を付ければよいでしょうか?

責任感と使命の認識を持ち続けること

北上

介護従事者がやりがいのある仕事として続けていくにはどのようなことを気をつけたらよいでしょうか。

秋山氏

それだけの責任感と使命というものを本当にわきまえて、経営者だけではなくて現場の人がそういう認識をどう持ち続けてこの仕事にあたってくれるかが重要ですね。

北上

利益と奉仕の間に介護事業者というのはいると思うのです。
そこがやはりどちらにシフトしていくかというバランスも難しいと思うわけです。
なぜかといいますと、介護事業所に勤めている人たちというのは20~30歳代が7割ぐらい、男女比率は8対2で圧倒的に女性が多いのです。

長く続けられない原因

精神的なものを拠り所にするビジネスモデルに無理がある。まだまだ検討の余地が大きい

ところが3年以内に8割以上の人間がなんらかの都合でそこの事業所を辞めていく。
転々としている方もいるのですけれども、3年以内に8割以上の離職率というのは異常なまでに高いと思うのです。

秋山氏

そうですね。

北上

「なぜそれだけ離職するのか」というアンケート調査があって、やはり最初は奉仕の精神をもってやっているのだけれども、どうしても労働と対価のギャップがあまりにもありすぎるということなのです。そこに長く続けられない原因がやはりあるようです。

秋山氏

なんとなく想像できますね。
「奉仕の精神」という精神的なものを拠り所とするビジネスモデルに無理があるといいますか。
あるいは正当な対価が得られないのは、経営者が多く取りすぎているのか、全体的に取れないのか。
そのあたりはまだまだビジネス的な検討の余地が大きいのではないでしょうか。

私の親父は今年亡くなって、妻の親父も続いて亡くなって介護の現場をこの数年見てきましたが、本当に大変です。
ですから今までの身内といわれる人が「身内だから」という社会的認識のなかで黙々とやり続けていたということには敬意を表します。

しかしそれでは今後は続ける事は出来ませんよ。
日本の社会は立ち行かないと思いますね。

24時間老々介護の限界

介護事業者を入れる等、新しい仕組みにしないと日本の高齢化社会は立ち行かない

北上

これは当社の人間がいっていた話なのですが、今までは老々介護といいますか子どもが親を介護していました。
ところがやはり24時間みるわけにもいかないし、お互いに変な気をつかったりもします。
そうかといって介護している側は報酬をもらっているわけではない。

そこで介護事業者が入ることによってその親は24時間サービスを気兼ねなく受けられるし、子どもの場合はしっかりとやった分は報酬として得られる。
これが今後日本の介護形態として何かヒントになるような気がするのです。

秋山氏

それは間違いないです。
24時間一緒に居ると、寝るに寝られないですよ。
交代で寝て次に誰かがというのならまだいいのですが、身内だからといって一緒についていても、とにかく夜寝られないわけです。
トイレに連れて行くなら何時間おきに起きるとか。

そういうことも身内だから文句をいっているけれども、外部の人が来ることによって「おはよう」と挨拶をして、感謝までするようになったというおじいちゃんはたくさんいますから。

新しい仕組にしていかないと日本の高齢化社会は社会的に立ち行かないですし、高齢者に対する尊敬の念もわかない。
悲惨な事例もいくつかありますし、そうならないように社会的使命というのは間違いなくいろいろな角度から考えてもあるわけです。
どれだけの大変さかというのがわかっていないと思います。

とくに男性は、私も含めて実際にその現場をつぶさに知りませんから。
本当に大変です。

8対2で介護事業は女性が多いことについて

両方必要。介護に従事することを誇りを持てる様なビジネスにする事も重要

北上

先ほどの労働人口の男女比率ではありませんが、8対2で女性が多いわけです。

実は私の父方の祖母が病院を併設している有料老人ホームにいるのです。
別にどこか病気というわけではないのですが、多少左足が不自由なので車椅子を使うことがある程度なのです。
たまたま何年か前にその祖母のところに行ったときに私の高校のときのサッカー部の先輩がいて、「何をやっているのですか」と聞いたら「実はここで働いているんだ」というのです。
その方は180センチぐらいで結構体格がよくて老人も抱えられるのです。

それを見ていたときに思ったのは、これは女性ではなくて男性がやらなくてはいけない仕事ではないかと思ったのです。

秋山氏

まったくそうではないでしょうか。
ただ、力を入れすぎて簡単に骨が折れたというおばあちゃんもいるのですけれども。

ですから女性の仕事だとか、男性の仕事だということはこれからの時代はないですよ、両方必要だと強く思います。

あるいは社会的認識も、介護に従事していることに誇りをもてるようなビジネスをつくっていかなければダメだという意味からも、非常に大事なことだと思います。

メディアの影響も大きいのでしょうけれども、「労働集約」というと何か頭を使わないで肉体労働というようなイメージですが、これからは「新しい労働集約型のビジネス:コミュニティビジネス」をつくっていくことも大事なことなのでしょうね。
地域にとっても。
あそこの地域はサービスのレベルが非常に高いから、移り住んでいくという高齢者がいてもいいですし、そのようにしていかないとね。

国の対策について

セーフティーネットが必要。胡散臭いものに対する、まともなチェック機能。

北上

そういう国の対策も含めて、もう少し気を使うべきではないかという印象でしょうか。

秋山氏

国のことについては、「セーフティーネット」が必要なのだと思います。
あとはまっとうであるというチェックといいますか、うさん臭いものがはびこるようなことにだけはしないようにしないと。
変な誘導策とかをやると餌ばかり食い逃げしていく業者が増えますし、中途半端な補助もコストが見えなくなりますから。

コストを浮き彫りにしないと正当な競争ができないから民間参入が難しくなります。
今そういう産業もちょっとあるのだけれども、行政は、やるならば中途半端な状態で関与しないでほしいですね。

24時間老々介護の限界

介護事業者を入れる等、新しい仕組みにしないと日本の高齢化社会は立ち行かない

北上

私は昭和の経営者の考え方に非常に共感していますし、自伝もかなり読むのです。

そのなかの一人に土光敏夫さんがいて、「メザシの土光さん」といわれたぐらい、旧石川島重工業を復活させるとかいろいろな功績がある方ですけれども生活は非常に質素で、そういう利他の精神をおもちの方だったと思うのです。

秋山氏

前に話したかもしれませんが、土光さんは中曽根首相のときの臨調会長でしたね。
札幌で開催されたフォーラムの休憩時に、たまたまトイレでお会いしたのを今でも覚えています。
ちょっと足がお悪かったですね。

京セラの稲盛さんなども、直接はお会いしたことはないのですがわりとそういうタイプではないですか。

北上

盛和塾で結構将来の企業家とか志のある人間をつくっていますね。
あとはYKKの吉田忠雄さんという創業者DVDを見ました。
いろいろとても勉強になることをおっしゃっていたのですが、そのなかの一つでカーネギーと同じことをおっしゃっていて、「善の循環」という考え方がありました。

「他人の利益を図らずして、自ら栄えることはできない」。
つまり自分が利益を得たければ、繁栄したければ、まず他人のためになる価値を提供する。
他人のためになることを行動し、考える。
それが結局は自分たちの利益につながる。
また、その利益はお客さんに還元していきなさいと。
その循環をつくる。
それが唯一無二の繁栄の法則だといっているわけです。

これは秋山愛生舘さんの精神も本当に同一の考え方だと思うのです。
それがやはり企業が長く続く最大の秘訣なのでしょうか。

秋山氏

そうですね。
とくにこれからの時代、労働集約的なものは相対する人と人との関わり合いということであればあるほど、「善の循環」は必要なのではないでしょうか。
また、そういう時代になってもらわないと困りますね。

北上

若い人たちでもボランティア精神といいますか、利他の精神がある方々も、これから働いていく人たちですね。

秋山氏

最初の体験に「善の循環」のないというのは、社会的にも非常に不幸な話です。
少なくともある種の成功体験ではないわけです。
この次といったときに以前とは違う状態で雇用が始まるという意味では、使うほうも、使われるほうにとってもいいことではないと思います。

北上

極端な話ですけれども、介護業界全体が悪循環になっていきかねない。

秋山氏

現実にどういうことが行われて、何が必要なのかということをきっと誰も知らなかったのです。
ヨーロッパのフランスとかスウェーデンとかは80年、100年かかって今日の高齢化社会になっているのに、日本は急激にこのようになってきているわけです。

他の先進諸国にも前例も無く、社会の意識と対応が追いつかないのです。
そういう意味ではこれからだということですよ。

高齢者が幸せでない社会というのは若者もやはり夢がもてない。
まして高齢化社会の課題の解決法が早く死ぬことだなどといわれたのなら、踏んだり蹴ったりです。

みんないっているのは「ピンピン、コロリ」ですぐに行きたいというのだけれども、なかなかそう行かせて貰えないとも聞きます。

北上

本当におっしゃるとおりで、老後が不安だという方があまりにも多すぎるなと思います。

もちろん人間誰しも先行きは不安なのですが、年を追っていくごとに不安感が増していくというのは極めて不幸なことだなと思います。

秋山氏

そうですね。
いろいろな能力などはある意味で落ちてくるし、まして仕事を定年になったあとは、これからは年金の不安もあります。

今の高齢者たちには年金が多少あるけれどもこれからの人たちは本当に大変ですから。

北上

紙面の都合もありますので、秋山様とのお話は第4回へと続きます。⇒
(第3回終了。)

秋山記念生命科学振興財団 財団概要

秋山記念生命科学振興財団

■設立年月
1987年1月8日

■理事長
秋山 孝二

■お粉事業
【褒賞及び助成】
・秋山財団賞
・新渡戸・南原賞
・研究助成(一般助成・奨励助成)
・社会貢献活動助成
・ネットワーク形成事業助成

■その他の事業
・生命科学に関する講演会
・財団年報、ブックレットの刊行